第2話 首輪の謎

 カーテン越しに朝日が差し込んでくる。

 特に時間を定めたわけではないが、起床時間はいつもほぼ同じ。時計は6時を指している。

 横を見ればレギが気持ちよさそうに寝息を立てている。


「レギ、朝だよ」


 声を掛けるがだいたいすぐには起きない。

 なにやらムニムニ言って、すぐにまた寝息を立てる。

 癖なんだろうか、寝る前はきちんと着込んでいるはずのルームウェアは、大抵おなかが少し出た状態になっていて、そこを片手で撫でているみたいな格好で寝ていることが多い。

 おなかを触ると安心するんだろうか。


 ただ、寝相は悪くない。寝ている間はほぼ動かない。抱き枕代わりに重宝だ。

 というのも、レギの体温は夏場はなぜかひんやりしていて、冬場はとても暖かい。季節によってちょうど心地よい温度なので、抱き枕代わりにするとよく眠れる。どちらかと言えば私はあまり寝付きが良くないため、サイズ感もあってこれがとても都合がいい。


 しばらく寝ているレギを眺めていると、レギは突然ガバッと起き上がった。

 これもいつも通りだ。


「……おはようございます、カガリさん」

「うん、おはよう」


 別に何かに驚いて起きるわけではない。きっかけがあると覚醒の度合いが上がってきて、あるタイミングで一気に覚醒するという感じなんだろうか。

 不思議だ。


「そろそろ起きる時間だから着替えをして」

「はい……」


 ガバッと起きた割にはぼうっとしているレギに支度を促し、自分もベッドから降りた。

 私が支度をしている間に、レギも支度をするのだが。


 レギは普段、装飾品の銀の首輪をよく身に付けている。どういう理由で身に付けているのかは本人が言わないのでよくはわからないが、赤い石が付いたそれはいわゆるマジックアイテムだ。

 ルームウェアを脱ぎ首輪を身に付け、おもむろに石に軽く触れる。すると、石に込められた魔法が発動して衣服を生成する。


 常に同じデザインというわけでもなく、その時々で生地の織りや色あいも違う。

 レギ曰く、どういう加減でその時の服が決まっているのかはよくわからないという。

 比較的露出が高いので、その上に白いロールカラーの付いたロングコートのような上着を羽織り、小柄な体格にはやや不釣り合いな太いベルトを2本締める。

 ヒールが高いスーパーロングブーツに類されるものも併せて生成されるが、おそらく小さいのを少しでも大きく見せる為なんだろう。ヒールがあれば小柄な女性程度の身長にはなる。


 じっと着替えを観察している私に気付いたレギは、首をかしげる。


「どうしたんです? 僕の生着替えをそんなにじっくり見るなんて」


 子どもみたいなものの着替えを趣味のように見ているわけではない。無論、レギも冗談で言っている。


「うん、ちょっと観察してる」

「観察、ですか? 僕の生着替えのですか?」

「人を変態みたいに言わないでくれないかな。君がどんなことをするか観察してみようと思って」


 少し抗議しているような眼差しを投げかけてくるが、そこは敢えて無視をする。


「君はいつも面白そうだからね。楽しさのお裾分けだと思って観察させてほしいな」

「……楽しいってほどでもないんですけどね」


 まあまあ、と適当に話を混ぜ返し、レギの不満をやり過ごそうとする。


「ご興味もあるみたいですしそれは構わないんですけど、それっていつまでやるおつもりで?」


 構わないと言いながらやっぱり少し迷惑そうだ。


「今日一日だけだよ、面白かったらまたそのうちやるけど、続けてやるつもりは今のところない」


 ふうん、と小さく答えたレギは、上着の裾を軽く払って整え、それからバッとこっちを見た。


「今のところ?!」 


 ……反応が遅い。

 なんとも言えない顔をしたレギは聞き返してくる。軽く頷くととても嫌そうな顔をした。

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