第18話 ××は見た
びっくりして涙目の僕を見て、その人はなんだよう、とすねた顔をする。
「え、ど、どちら様?」
「おいおい、つれないなあ。ちょっと前に役場で会ったのに、忘れちまったのか」
「すみません、物覚えが……」
あんまり良くないので、と言おうとして、彼の首に下がった登録証に目が行った。
綺麗な青い石がついた登録証。
ワディズの役場で会った人だ。
「あっ、ビコエさん」
そうだ。よく覚えてた、僕。
カガリさんと女性が愕いた目で僕を見た。覚えてたの?とカガリさんの口が動く。
僕は頷いた。
「役場でカガリさん待ってるときに、登録証について教えてくれた方です」
「へえ」
カガリさんが目を丸くする。
……よく覚えてたね、って口が動いた。
失礼な。たまには僕だって覚えてる。
分からなかった振りをして僕はビコエさんに向き直った。
「その節はどうもです。こっちでお仕事だったのですか?」
「うん。依頼があってなあ。黄緑の宝珠狩りよ。……お、黄緑にしたのか」
僕が首輪にぶら下げている登録証のプレートを見て、彼はうんうんと頷いた。
「いやいや、ここで再会できるとは偶然だなあ。俺はさ、ほら、盗賊被害が怖いとかで黄緑を欲しがる客が増えたんでこっちまで来たんだ。この辺は黄緑持ちが多いからさ」
相変わらずおしゃべりのようで、マシンガンのように次から次へと言葉を続ける。
ん? 盗賊被害で黄緑?
そういや、黄緑の宝珠の効果は害意の察知。熱を持つんだよね。……んん?
チャリ、と自分の登録証を握り、その温度を確かめた。
冷たい。
今だって日はよく当たってて心地よい。けど、じゃあ、さっきの首のぽかぽかは?
……あああああー!!
偽石の宝珠が盗賊を感知してたんだっ!
ちら、とカガリさんを見る。
彼は「ああ……」と呆れたみたいに言った。
……これは、あとでお説教コースだ。みっちりねっちり絞られるんだ。うわあ。
ぷるぷる震えつつ、僕はそれでも平静を装ってビコエさんに答える。
「ええ、おかげさまでカラー黄緑です。ビコエさんは黄緑宝珠狩りなんですね。でも、もうそろそろ黄緑宝珠を欲しがる人も減ると思います」
ビコエさんはそっか、と答えた。
「まあ、俺ぁ何も見ちゃねえけんどよ。あんまり簡単に見られねえように気を付けなよ?」
そう言って、彼は僕の首輪にぶら下げた登録証をキンと爪の先で叩いた。
……ええ……。なんか石が変わってるの、彼にもバレてるの?
カガリさんが後ろでクスクス笑っているのを聞きながら、コクンと頷く。
「ビコエ。なんだ、知ってたのか。君も人が悪いな」
「何言ってんだか。むしろ俺が黙ってることをありがたく思ってもらいたいぐれぇのもんだよ。目の前であんなもん見せられちゃあなあ」
彼はカラカラと笑い、そして、ふと表情を変えて僕の目を見つめる。
「──なあ。君の名前は○○か?」
なんともいえないビコエさんの微妙な表情。自分の考えていることに対してなにか疑っているような。心なしか緊張すら感じる。
僕まで緊張してしまって声を少し低くし、答える。
「……いいえ、レギといいます」
僕の返答にビコエさんはホッと息を吐き、うんうんと頷いた。
「そっか」
独り言みたいに呟きながら、彼はカガリさんを見た。
「久しぶりにあんたの話が聞きてえな、また近々飲もうぜ」
「うん、私もだよ。じゃあまた」
ひらひらと手を振るカガリさんに、ビコエさんもスッと手を上げ、それから僕らが来た村はずれの方向に去っていった。
ねえ、ちょっと待って。なんか僕、置き去り感がひどい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます