第15話 既視感
テカダさんが少し元気になるまでの間に、僕は一足先にリオジに走り、地域の保安隊を呼びに行った。
保安隊屯所が僕の通報で慌ただしくなり、隊員に出動の命令が下った。
僕は保安隊の馬が曳く車に乗せられた。行く場所は一緒だから乗せてってくれるそうだ。楽ちんだし、馬車に乗るなんてめったにあることじゃないからご機嫌だ。
馬車内では女性隊員さんが僕を膝に乗せてくれた。馬車はガタついて慣れないと酔うかもしれないから、と。
道すがら彼女……アーニーさんが言う。
「うちも男の子なんだけど、すごく小さいころから抱っこするとお尻の骨が当たって痛かったのよね。でもレギ君はお尻プニプニで柔らかくて骨がささらないわね」
僕の頬やお尻を撫でながら笑う。優しい掌がくすぐったくて気持ちいい。
隣に座っていた中年男性隊員のカサザさんが、どれどれと僕を膝に乗せて遠慮なしに僕のお尻を撫でる。
「お、本当だ、刺さらない。うちの小僧も固かったなあ。やっぱり個人差かねぇ、娘はこんな感じだったよ。今となっちゃ抱っこなんてさせてもらえねぇけど」
僕を膝に乗せたまま、懐かしそうに彼も笑う。
「もうすっかり大きくなっちまって、小僧も娘も遊んでもくれねえよ。父ちゃん寂しい」
カサザさんは遠い目をした。冗談めかしてはいるが本音なんだろう。
そんな彼を見て、何いってんのよ、とアーニーさん。
「もう少ししたら一緒にお酒が飲めるじゃない。それが今から楽しみよ、あたしは」
「そうだなあ、子どもは育つからなあ。俺も年を取るわけだが」
「抱っこはできなくなっても、一緒に出掛けたり、お酒を飲んだりできるようになる。ずっと可愛い我が子だわ」
──既視感。
そうだ、「おかあさん」がそんなこと、言ってた。
目の縁で何かが盛り上がって重力に負けそうになってるのを、目頭を掻く振りをして指先に移した。
目元を触ってる僕に気付いたアーニーさんは、僕の背中をトントンする。
「あら、眠くなった? そうよね、屯所まで1人で来たんだもの、疲れたわよね」
「あ、いえ、だいじょうぶです」
慌てて手をパタパタ振り、違うよアピールをすると、今度は頭を撫でられる。
「いいのよ、無理しなくたって。ほら、手が温かくなってる。眠い証拠」
カサザさんから奪い返すようにヒョイと僕を自分の膝に載せた彼女は、僕を横向きにして抱っこしながら手をぎゅっと握る。そして背中を軽くポンポンとたたいてくれた。
頬に触れる暖かくて心地よい彼女の胸が、呼吸でゆっくり上下する。
心臓の鼓動が聞こえる。
少し頭を上げて周囲を見回したけれど、目的地まではもう少し掛かりそうだ。
僕の体は疲れ知らずではあるのだけれど。
ほんの少しの逡巡ののち、僕は目を瞑った。
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