第8話 依頼人
宿に戻って翌朝。
依頼人がいるという町までは、歩いて4時間程度のところだ。
今回の依頼は、歩きで20時間程の距離の護衛だそうだ。
「正直、あまり気は乗らないんだよ。なにを運んでいるのかわからないからね」
と、カガリさんは言った。
荷物の量にもよるけれど、それほど多くない量の荷物で遠い場所への輸送ならば、飛行騎獣なりなんなりを使うほうが楽だ。けど、今回は量は大したことないものの、通る場所が飛行するケモノの比較的多い場所だったりするから空輸は避けたみたいだった。
それから、荷物の内容や価値で護衛も1人じゃなく2、3人つけたりするものなんだけど、今回はそういうこともない。カガリさん1人に対する指名依頼だった。ただ、狩人のレベルによっては護衛を2、3人頼むより高レベル1人のほうが依頼料は高かったりする。
指定のあった場所に移動すること約4時間。日の出前に出発して、到着したのは10時頃だった。
依頼人が住む町・ヤカーは谷あいの町で、中央には大きな川が流れている。
指定のあった河畔の寺院前で、僕たちは依頼人を待つ。
このあたりの町は行動範囲なのだとかで、カガリさんは付近の地形もだいたい把握しているそうだ。
待ち合わせの時間ちょうどに、依頼人らしき人物が現れた。
「やあやあ、お待たせしてすまないね、ワタシが依頼人のテカダだ。依頼を受けてくれて助かったよ。」
その人……テカダさんは恰幅のいい中年男性で、身なりも整っていた。薄い茶に緑がかった瞳が特徴的で、綺麗に整えられたお髭がよく似合う。
「はじめまして、カガリと申します」
営業スマイルが眩しいカガリさんは、こういうとき腹の中でなにを考えているかわからない。書類を見てほんの一瞬眉根を寄せた彼は、すぐにこやかに男性に挨拶をし、それから僕の肩に手をやった。
「今回、こちらのご依頼にこの子を同行させますが宜しいでしょうか? 登録済で見習いの子供ですが、この年齢としてはかなりの腕なのでご迷惑はお掛けしません」
ふむ、と顎に手をやる。お髭に人差し指だけで触っている。
「腕はいいのかね?」
「年齢としては相当なものです」
うん、嘘は言ってない。
カガリさんは僕の頭を撫でながら営業スマイルを深めた。胡散臭さは感じないあたり、たいしたものだ。
「それならば同行も結構。働きが良ければ、この子の分の報酬も出そう」
首輪に下げた偽石付きの登録証を見たテカダさんはさらに続けた。
「優秀な狩人を育成するにも金は掛かる。カガリさんほどの人が面倒をみている子供なら有望だろうからね」
「ありがとうございます」
カガリさんは軽く頭を下げ、僕の頭も下げさせた。
狩人はケモノを狩る。人々を守り、食材や貴重な品を人々に与える。
お金持ちの中には、そういう若い狩人の育成に力を入れている篤志家もいて、今回みたいに新人を育成中の狩人を支援してくれたりする。
ただ、また一瞬カガリさんが表情を変えた。なにか気掛かりでもあるんだろうか。
彼はテカダさんにたずねる。
「ところで、今回の荷は一体何でしょうか。ご依頼の書類に記載がなかったのですが」
「ここに入っているんだ。貴重な品やちょっとしたものまで30点ほどね。これを……依頼書にもあるリオジのドゥエンさん夫婦に届けるのが今回の依頼内容だ。依頼書を書いている時点では、荷の詳細が決まっていなくてね。書けないまま出したんだよ」
特に慌てる様子もなく、彼は肩に2重に巻いたベルト状の鞄を指差す。
カガリさんは納得した様子で承知しました、と言った。
「それでは、出発しましょう。歩いて行くのですから追々話もできましょう」
「そうですね、追々」
テカダさんは地図を見る。カガリさんはこのあたりの地形や道はだいたい把握しているので、特に地図は見ず、西を指さした。
「今回は、ケモノの少ない街道を通ります。ですからまずは街道に向かいますよ」
「ほ? そうか、そうだね」
ふふふ、と笑いながら、テカダさんは地図をしまった。道はカガリさんに任せるらしい。
僕は腰の双小剣に軽く触れ、位置を直す。ここから先は街道とは言えケモノの領域だ。依頼人の身の安全を第一に!とカガリさんから言われている。
さあ、気を引き締めなくては!
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