第6話 依頼と報酬
なんのかんので結構待たされて、椅子に腰掛けたままいつの間にやら眠りこけていたらしい僕は、肩を軽く叩かれて目を覚ました。
「待たせたね。疲れた?」
「頭が停止しちゃってたみたいです」
「ごめんね」
苦笑いのカガリさんに、「いえいえ」と首を横に振りながら椅子から立ち上がる。
「それで、依頼は?」
「うん、そんなにたいしたことないよ」
依頼の書類を見ながら、カガリさんは僕に内容を説明してくれた。
この世界において、多くの国や地方は主要街道や主要町村部周辺を警備している。それらを担う警護団は、ケモノの侵入を防ぐことが主な業務だけど、個々のことには対応できない。なにせケモノは数が多すぎるし、警備の範囲だってとんでもなく広いから、警備だけで手一杯だ。
だから、主要町村部以外の……例えば山野部の農地、工場なんかだとケモノの被害が割と出ている。カガリさんの家があるティニの村は、主要街道沿いにあるので、そういう点においては優遇されていると思う。
山間部なんかは特にケモノの他に野盗なんかも出るから、警護が必要になったりすることは結構多い。
今回の依頼は商人の護衛だった。
大型の鞄で『貴重なもの』を運ぶという依頼なんだそうだ。
「貴重なもの?」
「なんだろうね」
カガリさんは素っ気なく答えた。
「本当はね、内容によっては野盗に狙われやすくなったりケモノに狙われやすくなったりすることもあるから、難易度的な問題に絡んでどんなものなのかは大雑把にでも言うものなんだけど」
こっちの身の安全もあるし、と付け加えて、カガリさんは紙をペラペラと振って見せた。
依頼人らしきヘーゼルの瞳の男性が写った写真が貼り付けられたそれは、さっき彼が窓口で預かってきた書類だ。依頼欄には、本当にただ「貴重品運搬の護衛」としか書いていない。
カガリさんはその辺に不満があるんだろう。あんまり気に食わない依頼人なのかもしれない。
「なんでそんな不満げなのに、その依頼を受けたんですか?」
「提示額がよかったんだよ」
「……うわあ」
ものすごくわかりやすい返答に、深く深く納得した。
「慈善事業じゃないんだ。身体張ってこんな仕事をしているのも実入りがいいからだよ。英雄になりたければ警護隊に入ればいい。仕事なんだから、報酬が良ければ個人的に相手が気に食わなくても請け負うよ」
仕事として割り切っているということか。
「ちなみに前金+後払いだったよ」
じゃら、と革袋に入れられたコインが音を立てる。
「今回は距離もそこそこあるから、まずは支度をしないと」
時計は3時を回っている。
「昼食がまだだったね。おなかがすいているだろう? まずは腹ごしらえとしようか」
「わーい!」
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