第6話 役場での交渉
今回の依頼は、役場──地域安全管理部からのものだった。
ワズモの役場に着いた僕らが受付で依頼の書類を見せると、話が通っていたらしく、僕たちはすぐに応接室に案内された。
応接室のソファに腰掛けて間もなく、廊下をバタバタと駆けてくる人の足音がしてドアが開く。
「遠路お越しいただき、ありがとうございます。今回の依頼を受けていただけて、町と致しましても本当に心強く思っております」
彼は地域安全管理部の部長であるターカさんだ。
開口一番、緊張した面持ちで彼は僕らに言った。
「今回は、依頼書にもあります通り、マモノ討伐についての依頼をさせていただきたいのです」
そう言って、彼は数枚の資料をカガリさんに渡した。
それから僕を見て、カガリさんにたずねる。
「カガリさん、こちらの方は……」
「レギと言います。この子は私の助手として同行します。黄緑ですが、腕は立ちますからご安心ください」
「わかりました。カガリさんの助手でしたら腕も確かでしょう」
ターカさんは書類に僕の名前を書き付ける。役場だからそのへんは細かそうだ。
カガリさんは受け取った書類に目を通す。マモノの目撃情報が記載されているようだ。目撃地点や状況など、かなり細かく書かれている。
「依頼ではマモノと交渉、または討伐とありましたが」
カガリさんがたずねる。
普通、マモノのことであれば狩人ではなくて警護隊のほうに話が行くことが多い。普通の狩人ではマモノの対応は難しい。
「地域の方がそれらしき姿を見かけた、という通報が増えていまして。そちらの書類のとおり、地域は比較的広範囲にわたります。しかし、人間には気付いた様子があっても特に反応なくいなくなるなどの動きをしているようです。まあ、反応としては普通なんですよ」
だいたい、マモノは人里に滅多に姿を現さないし基本的には理性的だ。人を避けはするけれど、人と遭遇してもいきなり攻撃を仕掛けてくる、ということはない。
国や地方はマモノの攻撃的な動きがないか常に警戒していて、マモノの目撃情報に敏感だ。今回はたまたま、通報の回数が普通じゃなかったんだろう。
「マモノの容姿は以前から知られているマモノのものとほぼ一致していますが、人を襲うような行動は報告にありません。ただ、安全管理上、地域の皆さまの安心のために、念のためカガリさんにマモノの様子を見ていただきたいのです」
「交渉ができれば交渉を、無理ならば討伐、というのはそういうことですね。わかりました」
その後は金額の交渉や日程などを簡単に詰めた。
役場相手の依頼だと案外お値段がよかったりするし、だいたい相場は決まっていたりするから、その辺の交渉はスムーズだった。
たぶん、今回は相手がマモノだから、普通以上に提示金額はよかったようで、普段顔にはあんまり出さないカガリさんが、今日は上機嫌だった。
役場を出て、通りを歩く。時間はまだ11時を回ったところだ。
僕は少し心配になる。
「カガリさん、マモノ相手なんですよね?」
「そうだよ」
「マモノ相手ってことは、場合によって討伐なんですよね?」
「そうだね」
「ものすごく上機嫌ですけど、そこまですごい金額って程でもないですよね?」
「普通だね。でも、役場の依頼は割りがいいからね」
ふふ、と含み笑いするカガリさん。
半分は前払いで、案件終了の時点で残りを払ってくれるんだそうだ。今回は新人教育手当らしきものと、さらに成功報酬も付いたりする。
「成功報酬って?」
「成功条件がクリアできたら支払われるんだよ。今回はマモノがどういう理由で歩き回っていたのかがわかればいいそうだよ」
なんだか随分余裕そうな様子に、僕はもやもやする。
「場合によっちゃ、そのマモノとやり合わなきゃならないんですよね? なんでそんなに余裕なんですか?」
「君がいるからねえ」
「相手がどういうマモノかわからないと、僕だって簡単には……」
「わかってるんだよ。ヤズ、こっちおいで」
呼ばれたヤズは、ぴょんとカガリさんに飛び移る。
なんだか随分となれた感じで、カガリさんはヤズの首をくりくりと撫でた。
「ここが気持ちいいんだって」
ヤズはカガリさんの手にすり寄り、クルクルと喉を鳴らしている。
「前払いのお金も貰ったし、まずは準備だね。今日は準備をしたら、身体を休めておこう」
少し心配はあるけれど、カガリさんも何か考えでもあるんだろう。あまり心配しても仕方がない。
「お昼食べていきましょう」
「ちょっと早いけど、まあいいか。そうしよう」
11時前の大通り。賑やかな通りはいつも通りだった。
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