第2話 思わぬ返事
「新しい依頼の内容って、どんなんでしたっけ」
片道5時間ほどの道のりを行く道すがら。僕は例の生き物を入れた籠を手に、カガリさんに尋ねた。
「またか。昨日書類に目を通したんじゃなかったの? ……マモノの目撃情報があってね。交渉、場合によっては討伐」
「討伐、ですか。簡単に仰いますよね」
あちこちに現れるケモノとは違い、マモノというやつはめったに人前に姿を現さない。知性があり、人間の言葉を理解することもできる。
「マモノが現れるのは国が乱れる前兆だ、とか昔から言うけど」
ふむ、と頷く彼に僕は答える。
「戦争なんてどのくらい昔の話ですかね。前のはたしか50年くらい前だったと思いますが」
「遠方の国でね」
「でも、たまにマモノの大量出現っていうのは話を聞きます」
「マモノやケモノが大量に国内を荒らしだしたら、他の国にちょっかいを出すなんてやってられなくなるから、戦争なんかやってられないんだろうね。だからいま、戦争は起きにくいのだろうし、国でもマモノの出現情報には神経を尖らせてる」
面倒ですもんね、と僕。籠の中の生き物も「ぷきゅう」と鳴いた。
***
歩くこと5時間、ようやく目的の町ワズモに到着した。時間は夕方の6時を少し回るくらいだ。
主要街道を少し外れたところにある町なので、途中、ちょっとしたお客様などにも出会ったが、大したものでもなかったので割愛する。
小遣い稼ぎにはなったのだけれど。
町の大通りを抜けて小道に入る。
以前来たことがある場所なので、何となく僕も覚えてはいるが、カガリさんは迷うことなくすいすいと道を行く。
「ここだ」
カガリさんは以前預かっていた住所を併せて確認し、ある家の門前に立った。
軽くノックすると返事があって、やがて1人の男性が中から顔を出した。人の良さそうな、真面目そうな人物。マトクさんだ。
「ご無沙汰しております。先日はありがとうございました」
カガリさんは彼に丁寧に頭を下げる。
突然現れたカガリさんに一瞬動きを止めたマトクさんは、ぱあっと表情を明るくして声を上げた。
「わあ、カガリさん! お久しぶりです! 先ごろは本当にお世話になりました。急にこんな遠方にどうされたんですか?」
予想外の反応に僕はカガリさんを見上げた。
彼も、ちらりと僕を見た。
「先日、私のところに差出人不明の小包が届いたのです。その中にはあなたの名前や住所と、この子が」
僕は籠を差し出した。生き物が「ぷきゅう」と鳴いた。
「……!? ヤズ!!」
言うが早いか、彼は籠の中の生き物を抱きあげ、ギュウと抱きしめて頬ずりをする。涙目になって。
「なぜ、なぜあなたのところに?!」
驚きと喜びが入り混じる複雑な表情で、彼は興奮気味にカガリさんに尋ねた。
「私もそれを聞きたくて伺ったのですが。確認しますが、この子はご自身で私宛に送られたものではないのですね?」
「はい。突然行方不明になってしまって。本当に心配していたんです、ありがとうございます!! ……この子はどう見たって普通のオオモルでしょう? なのに、ケモノの子かもしれないって怖がる方がいて。小包で届いたのですか? ご近所の方が送ったんでしょうか……。私の住所が書かれていたのですか? なぜわざわざここまで来てくださったのですか?」
話を聞きに来たつもりが、逆にマトクさんに僕たちが聞きたいことを質問されてしまった。
つまりは、僕たちが彼に聞き出せるようなことはなにもないってことだ。
カガリさんはにっこりと営業スマイルを作った。
「別件の仕事で来たついでにがあったもので。いろいろ奇妙な点が多かったので直接お話ししたかったのです。とりあえずはよかった。今日はこれで失礼しますが、続きは今度の仕事が終わりましたら、そのときにゆっくりと。」
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