誰かの記憶1

昔話

 僕は、ふと思い出した。


 誰から聞いたのか……そうだ、「おかあさん」が話してくれた昔話だ。

 なぜ?

 よく分からない。


 おなかが痛い。


 時々襲いかかってくる、体を内側から割られるようなひどい痛みに耐えながら、わずかな隙々に「おかあさん」が話していたその……ごく短い昔話を思い出す。

『記憶の本』の中の文字を、指でなぞるようにして。 



「昔々。

 世界がまだなにもない、まっさらな平面だったころ。

 一柱のカミサマがいました。


 カミサマは、ある時自分が一人きりだと知りました。

 寂しくなったカミサマは、誰かとお話しがしたいと思いました。


 そこで、まっさらな平面にフッと息を吹きかけました。

 すると、なにもなかったまっさらな平面に波が起き、その波の中からさまざまな物が生まれました。


 空が生まれ、星ができ、太陽ができ、地面ができました。

 風が吹き、火は燃え、水は流れました。

 そうしてすっかり世界ができあがると、カミサマは白い大地に降り立って言いました。


「さあおいで、たくさんの命たち。

わたしとたくさん話しをしよう。

わたしはずっと待っているよ」


こうして世界が生まれました。


──そうね、○○。あなたも世界の子どもなのよ」


そう言って「おかあさん」が笑って、僕も笑った。


ねえ、「おかあさん」。

僕、頑張ったよ。

“これ”だってたくさん集めたよ。


僕は約束、果たせたかな。


僕はこの痛みに、耐えることができるのかな……

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