エピローグ ~少年少女、幸せの河川敷へ~
本田承太郎と、大平努と、熊沢明子と、景山翠は家路に着くため下校していた。
「いやーまさか地球寒冷化の原因が笑美さんのぬくもり病だったとはなー」
努が、夕焼け空を見ながらふと呟いた。
河川敷を眺めると、大量のタンポポが植えられ、子供たちがそれを取っては冠にして遊んでいた。
「んまあ、笑美を原因扱いにしてほしくはないけど、案外間違ってはいないから何とも言い返せないわね」
なんだかやるせないといった表情で明子は目線を河の方へそらした。
努は、右手側から聞こえる、ずぞぞぞという音の主に声をかけた。
「というか、さっきから翠……何食べてるの」
「山菜そばだけど、何か問題でも?」
「何か問題でも? じゃねえ! 問題大有りだって」
「うどん派だった?」
「そういう問題じゃない! そもそも温そば食べ歩きとか聞いたことねえし。だいたいその丼どうすんだよ」
翠は茶色の丼を手に持ち、そばつゆを飲み干した。
「ぅはぁ。……だいじょうぶよ。ここに、岡持ちもあるから、運ぶには問題ないわ」
「うん。それなら大丈夫! ……とはならないぞ。というか、あと三杯もそばが入ってるじゃないか! お前それ全部ひとりで食べる気か?!」
「流石に一人で食べないわよ。これは――――」
翠が何か言いかけると、明子の「あ――――!」驚嘆の声が聞こえた。
明子の指さす方へ眼を見やると、そこには小鍋を抱え、タンポポを摘む、春日友一さんの姿があった。
友一さんは、こちらに気づいたらしく、朗らかに笑って手を振ってこちらへ近づいてきた。
「いやあこんにちはこんにちは。みんな学校の帰りかい?」
「そうです。友一さんはここで何をしてたんですか?」
「何って、タンポポを摘んでたんだよ」
「え、どうして?」
「そりゃタンポポを食べるためさ」
「「「え?!」」」
承太郎と努と明子は苦虫をかみつぶしたような表情でひいた。
一方で翠は銅像のように変わらぬ表情で、ぺらぺらと喋り出した。
「タンポポの葉には一日の推奨摂取量からみて、十分な量のカルシウム、鉄、リボフラビン、ビタミンC、ビタミンB6、ビタミンA、ビタミンE等が含まれているわ。またほろ苦い味が特徴的で、夏に胃をバテさせない効果があると昔から言われているの。お浸しやてんぷらが一般的な食べ方だわ。先人の知恵というのは素晴らしいわね」
「さすが翠さん! その通りだよ。今からみんなでこれを調理して食べるんだ。よかったら君たちもどうだい?」
「え、みんなって?」
「あそこさ」
友一の指さす方向をみると、そこには段ボールの上に置かれたブラウン管のテレビを、綿が出て壊れたソファに座って見ながら、談笑している、笑美と美里がいた。
二人は口に手を当てて笑ったり時には肩をたたいて突っ込んでいたりした。
「あそこで小さなキャンプをするんだ。良かったら来てよ。待ってるからさ!」
友一は、手を掲げて頼もしく挨拶をして、二人のもとへ駆け寄っていった。
それは西日のせいか、物凄く温かく、まぶしい光景だった。
「あれは入る隙がないね」
「そうだね」
「ああ」
承太郎と、努と明子はお互いに顔を合わせて微笑んだ。
その笑った顔にも夕日が照らされ、どの頬も赤くなっていた。
そして翠も、手に持った岡持ちをぎゅっと握り絞め。
「じゃ、私三人にそば渡してくるから!」
「いや台無しにすんな!」
――――そう、この物語は般若のお面を被った殺人鬼が起こすサスペンスでも、迷いの森からの脱走劇など一切関係ない、普通の高校生とその周辺のいろんな人物が織りなす、ちょっと不思議で笑いの絶えないコント的群像劇! と言いながら、途中からシリアスな展開が始まり、笑いはどこ行ったの? セカイ系なの? と思わせておいて最終的にギャグで終わるハートフルコメディなのであった!
~第一部 完 ~
この世界はちょっと不思議な笑いでできている 紅之模糊(くれないのもこ) @mokokurebai
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