ほーむらんっ! 〜超筋肉野球〜

ノートン

1話 うす

「ぐっ…クッ!ハァハァハァ…」



「はいッあと3回!」


 背中に担いだバーベルが、紐のようなタンクトップを着た俺を地面へと押し付けてくれる。

 


「…クッ!ハァハァハァ…」


 そしてそこから俺は、ただ立ち上がる。


「休むな休むな!あと2回ィ!」


「フンッッ…クッ!」


 生きる!

 生きるんだ!

 俺は…!

 

「チャンスチャンス!どうしたオラ!」


「クッッ!ハァハァハァ…」


 行ける!

 俺はもっと…

 行けるっ!


「ラストワンレップ!ラスト!ホラ行け!」


「グッ…!あ゛ぁ゛ー!」


 ガチャンッ


先生の補助もあってバーベルをラックに掛ける。


  命懸けのトレーニング。


 でも、楽しくて!その上気持ち良い。


 そう俺は天国にいる!




 そして、俺は表紙にゴールドジムとプリントされた黄色いノートを取り出す。


 ノートにボールペンで書き込むのは重量と、回数、そして総負荷だ。



 ハックスクワット


 200kg 1set. 8rep

 2set. 6rep+2

 3set. 4rep +2+2

 180kg 4set. 15rep



「センセイ!補助ありがとうございました!」


「よっしゃその意気や!鳴太!」


「あざっす!でも、レストポーズのタイミングミスったせいで、1、2レップ損しました!」


「経験積まないといけんな!」


 センセイは俺をボディビルの道へ引きずり込んでくれた、俺の恩師で、全日本ボディビル選手権大会を3連覇をしたこともある元トップビルダーだ。


 センセイは近所に住んでいて、よくセンセイの娘の夏海といる俺に才能を見出したらしい。



 確かに実際やってみると、みるみる筋肉はついていくし、まぁ別にいいけど。


「次は…レッグプレスか!」


 *


「ぐっ!…ハァハァハァ…ンッッ!」


 ガチャンッ


 今日のトレーニングはおしまい。


「お疲れーす。センセイ!先上がります。」


「ああお疲れ!」


 先生の今日のトレーニングは肩だ。

 先生は1日で肩の前部中部後部を刺激させるので、トレーニングの時間は長くなる。


「お?もう帰るのナルくん!」


「フィジーさん!」


 この人はフィジーさん。上半身のカッコイイ筋肉のつき方を競い合うフィジーク競技をしている。


「今日どこだったの?」


「四頭筋ですね!」


「フィジーさんは?」


「今日は背中かな?ってナルくん!またおっきくなってない!?」


「あざーす!増量してますから!」


「そうか〜!じゃあまぁ気をつけてな」


「ういーす!」


 更衣室で俺は紐のようなタンクトップ…通称ヒモタンを脱定食屋てっちゃんへと向かう。


 しかし、予想通り!


 走れないどころか。


 もはや歩行困難。


 ひゃー気持ちええーー!


 そして悠々と歩く。


 で、定食屋てっちゃんに着くのがアイツのバイトの終わる1時間前。


「うーす、こんばんわー。」

 のれんを潜り店に入る。


「おー!いらっしゃい!ナルくん!」

 店長のテツさん!


「いつものあるよ!」

 女将さんのテツコさん!


「こう、アンタばっか毎日見てるとうんざりしてくるわ…」


 バイトの夏海…


「おい!夏海!おめぇバイトだろ!一応俺は客だぞ!コノヤロー!」


「客ってアンタねー!ナル君スペシャルとか言って野菜と余った肉タダで食わして貰ってる分際で何言ってんの!」


「んだと…!」


「なによ!」


「あーそうだそうだ!ナルくん!なっちゃん!魚も少しなら余っとるぞ!」


「俺!俺!それ俺予約!」


「ちょっと!アンタばっかりズルいわよ!テツさん!それナツの!!」


「これは…なっちゃんだな!」


「テツさん!それはねぇぜ…」


「ナツも野球部で動いてるもんね〜!バーカ!筋肉バーカ!」


「…んだと!俺のことを馬鹿にしても、筋肉のことは馬鹿にしないでください!〜なんちって!じゃねー!夏海!てめーだけはぶっ殺す!!」


「やーい!怒った怒った!」


 *


「じゃあ、バイトお疲れ様!なっちゃん、ナル君夜道気をつけるんだよ!」


「うーす!りょうかいーす。」

「アンタね…!!」

「ええよ、ええよ」

「本当にこいつがすみませんね。いつもありがとうございます〜」

「指で指すな指すな。一応先輩だぞ?」

「いいんですよーこれで」

「んだと!」




 夜道2人で帰る


「おー、ナル、ナツ。お前らも帰りか。」


「おーケイか!助かった〜」


「何が助かったって?コノ」


「ケイ!野球部の帰りか?」


「そうだな。」


 俺の双子の弟。川島 慶太。野球部でピッチャーだ。昔全中で3位のチームでエースをしていた。まぁ、流石は俺譲りの身体能力ってとこだな。


「お疲れ様です!ケイ先輩!」


「ありがとう。ナツちゃん。」


「私!絶対来年ケイ先輩と同じ高校行きますから!」


「ありがとうね。」


「おいおい、俺もケイと同じ高校だぞー!おーい!」


「へぇー!知らなかったぁ!」


「おい!知ってるだろ。この!」


「じゃあケイくん!ばいばーい!」


「あのやろ!トンズラしやがった。」


「俺たちも帰るぞー。」


「へーへー」


 *


「ただいま。」

「ただいまっするー!」


「ケイ!ナル!お帰りー!」


「うっす!かーさんメシメシ!」

「こら!ナル!手洗いなさい!全く高校生だっていうのに。ご飯のことになるとすぐこれなんだから!」


「へへっ」


 洗面台に行き手を洗う。


「ねー!ナルー!ケイはシャドー?」


「たぶんー!」


 手を洗うと飯が俺を待っている。


「いただきまーす!」


 大量のブロッコリー、キャベツ、ニンジンを俺は先に食し…


 それから肉を食べる。


 そして最後に炭水化物!

 白ごはんを食す。本当は玄米の方が良いのだろうが、体には合わなかった。


 俺が3杯目の白ごはんを取りかかった頃。


 ケイが、飯を食べにやってきた。


「ケイ?ご飯か?」


「おう。」


「いっぱい食えよな。このままだとケイが骸骨にでもなるんじゃねぇかと…そんなんじゃ兄として学校で歩くのが恥ずかしいぜ。」


「ナルには言われたくねぇ!この肉ダルマ!こっちが恥ずかしいわ!」


「へーへー。でも、食った方がいいぜ。パワーがつく。」


「食ってるわ!精一杯な。」


「なーケイ?」


「なんだ?」


「俺思うんだけどさ。野球って練習し過ぎじゃね?」


「普通だろこれぐらい」


「そうか?だってよ!7時間くらいやってるんだろ?」


「まぁ、そんくらいかな」


「そりゃ筋肉つかねぇよ!マラソンじゃねぇか!」


「うっせぇ」


「コイツ…既存の方法に囚われてやがる!ケイ!おま、筋トレしろー!」


「ばーか!野球する筋肉なんて野球して付けるもんなんだよ」


「あーあーかわいそうにー!ほれほれ!こっちに来ると楽しいぞー!トレーニングは最高ぞー!」


「そんなことより…大丈夫なのか?」


「ん?」


「春休みの宿題。」


「あ、」


「あ、じゃねーよ。」


「俺は見せないからな!」


「慶太くん…お願い。一生のお願い。」


「見せねぇよ!」


「お願い!おねがぁーい!!慶太さまぁー!」


 俺の声は天に響く。





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