百合の花 ー9ー

A(依已)

第1話

 何時間、飛行機とバスを果てしなく乗り継いだだろうか。

 よくもまあ、片言とも呼べないほどのお粗末な英単語だけで、ここまでやって来られたものだと、我ながら感心した。うちの両親が聞いたのなら、「行動力の塊」とは正反対の性格の娘の、ずいぶん思いきった行動に、ことさら驚くに違いない。

「いつになったら、着くのかな・・・」

 舗装などされてやしない悪路に揺られ、わたしの心情など察する気配もさらさらないおんぼろバスは、どんどんと山奥へ進んでいった。

 窓の外にふと目をやると、そこは断崖絶壁すれすれで、遥か下を見下すと、大きな川が、勢いよく水しぶきをたてながら、うねっている。今にも、龍が川から飛び出し、悠然と舞い上がってきそうだ。

 道端には時々、バスやトラックが、まるで玩具のミニカーでも転がっているかのように、当たり前のごとく横転している。恐怖で、目まいがした。

 日頃の不眠と、旅の疲れもあいまって、わたしは体が左右にガタガタと揺れるそのバスの中、信じられないことに、いつの間にか眠ってしまっていた。深い深い眠りに落ちた――。


 うとうとし出してから、数時間が経っていた。

「ウェイ、シャオジエ、ダオラ!」

 なにやらいわれながら、運転手に体を揺すぶられ、わたしは長い眠りから、ようやく目を覚ました。外国人が、こんなガタガタ道で、よくぞここまでぐっすりと眠れるもんだと、その運転手も、わたしに対し呆れ気味であるのは明らかであった。

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百合の花 ー9ー A(依已) @yuka-aei

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