第17話 刺客

 ドカンと大きな音が響いた。その轟音で耳が一時的に機能しなくなる。あたりを見渡すと、部屋は炎に包まれていて、二人も驚いた様子で必死に周りの情報を集めているようだった。彼女たちが無事でとりあえず一息するも、安堵はできない。ただの火災でないことははっきりしている。攻撃されたのだ。だが、早すぎる。何度もつけられていないか確認をした。なぜ俺たちの位置情報がバレているんだ?それに今回は昼から夕方にかけての襲撃とは明らかに違う。一般人の生死が考慮されていない。そんなことができる人間は


「“神の子”だ」


「え?」


「お前たちと同じ“神の子”だ!そうとしか考えられない!心当たりはないか?!」


「!?」


 驚いた様子の静流とは対象的に朱記さんは冷静に答える。


「だとしたら能力名は“撃滅”だ」


 なっ・・・朝のドライブ途中、朱記さんが言っていたことを思い出す。撃滅とは、アニメやゲームで出てくるような攻撃技の総称。つまり・・・


「物理攻撃なら何でも使える」


 やはり・・・



「はじめまして」


 燃え盛る炎の中からそいつは現れた。ひと目見ればわかる。年は俺たちと同じくらいだが、鍛え上げられた屈強な肉体。勝てない。・・・いや、勝たなくていい。逃げれるだけの時間を稼ぐ。


「はじめまして。君は」


「あ~だめだめ。今セリフの途中だから。そう、そのまま、動かないで」


「じゃあもう一度最初から」とその男は言う。何を言っているんだ?こいつ。


「はじめまして。そして、さようなら」


「!?」


 天井が落ちてくる。思考する前に身体が勝手に反応した。ギリギリでそれの回避に成功する。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「ええ?避けちゃだめだよ!今、俺が超絶かっこいいセリフ言ったんだからァ!!」


 息を切らしながら俺は言う。


「なんだ?お前、さてはアホだな!!」


「アホ?アホってどういう意味だァ?!」


 瓦礫が倒れてきた。いや壊された瓦礫が降り掛かってくる。それをもう一度俺たちは回避して、その衝撃で舞った煙に身を隠し俺たちは半壊したホテルから急いで脱出を試みる。ここはホテルの3階だ。しかし、エレベーターなんて使うものなら、破壊されてお終いだ。半壊したホテルの鉄パイプなどを伝って器用に降りていく静流と朱記さん。人間は、切迫した状況に置かれると、普段には想像できないような力を出すことができると聞く。いわゆる火事場の馬鹿力というものだ。よし俺も続くぞ!


「あ痛ァァ!!!!」


 尻から落ちた。最初はよかった。床が抜けている所から2階の部屋まで降りるまでは。そこからパイプに勢いよく掴みかかったところで、パイプが壊れてそのまま落ちた。ケツがじんじんするぅ・・・


「なにやってんのよ?!急いで!!」


「お、おう!!」


 俺たちは走って鶯谷を抜ける。しばらくすると上野にある寛永寺霊園の通りに出た。幽霊など信じてはいないが、夜中の霊園はやはり不気味だ。というか、いままであれだけ人外の能力を見てきたんだ。やっぱり幽霊くらいいるんじゃ・・・そんなことを考えていると


「お、おばけーーーーー!!!?????」


 うわ、びっくりしたぁ。なんだ、静流か。そういえば昨日の廃校でも相当怖がっていたっけ。


「静流、大丈夫だ。どう考えてもおばけよりお前たちの能力のほうが怖い。」


「そ、そう?そうよね!まぁ、知ってたけど」


 静流を落ち着かせていると、少し後ろから叫び声が聞こえる。


「はぁ、はぁ、くっそ!待てよ、お前らあああああああ!!!」


 まだ追いかけてきてるのか。もう霊園を抜けて上野公園に入るぞ?タフすぎるだろ。そろそろ諦めてほしい。


 あいつのさっきまでの言動から推測するに、どう考えてもかなりのバカでアホで厨二病だ。そういうやつには精神攻撃が一番効く。少し揺さぶって様子を見てみよう。


「お前じゃ追いつけねーよ!ばーーーーか!」


「なんだとぉおおおおおおおおお!!!」


 結論から言って、この作戦は失敗だった。敵は手のひらから衝撃派を作り出し、腕を後ろに引いて噴射。みるみる俺たちの距離は縮み、ついには俺たちを越して目の前で止まった。というか勢い余って転んだ。


「くっそいてええええええ!!トラップか!!いつ仕掛けた!?てかてめぇ、さっき馬鹿って言っただ・・・ゲフンゲフン!!貴様、我のことを馬鹿と罵ったな?我は貴様らと対等に勝敗を喫するために能力を封印していたのだぞ?神の慈悲を知らぬ愚かな人間風情が恥を知るがよい」


「お前、その体格でそのキャラは無理があるだろ。いつもどおりでいいぞ」


 忙しいやつだな。だがやつの言っていることは本当だろう。能力を使えば道路や電柱を破壊するなどしてすぐに俺たちを戦闘不能にすることができたはずだ。



「貴様らに慈悲を与えよう」


「なっ・・・逃してくれるのか?」


 先程からの頭の悪い話し方に加えて、思わぬ言葉に俺の思考は停止してしまう。


「それは貴様ら次第だ。」


「わかった。条件を聞かせてくれ」


「うむ。我の条件は・・・」


 ひとりだけ引き渡せとでも言うのだろうか。だったら条件を飲むわけにはいかない。不利な状況だがなんとかしなくてはいけなくなる。だがそれ以外予想がつかない。なにを要求されるんだ?



「我が貴様らに出す条件は」




「なんかかっこいい必殺技名を考えることだ!!!!」




「は?」


 やっぱりこいつはとてつもない馬鹿だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

【毎日更新】Revise~死んだはずの幼馴染は神の子になって生きていた~ あると @exgf_aruto

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ