第16話 女子高生 vs 警察 vs 自衛隊

 ついに、敵に囲まれてしまった。こちらの緊張感が増す一方、相手は至って落ち着いている様子。俺たちをただの子供だと思っている様だった。おそらく、彼らには能力のことは聞かされていない。いつでも掴みかかれる距離まで近づいた。


「朱記!!能力を使え!」


「だから僕は」


「一般人に!!!!」


「!?そういうことか!」


 その瞬間、何人もの女子高生が警察や自衛隊に向かって殴りかかる。


「なに浮気してんのよ!!」「父の仇!」「よくもお母さんを・・・」「妹に謝れ!」


 各々が朱記さんに植え付けられた記憶によって、“敵”となった警察、自衛隊に突っ込んでいく。敵は何が起こっているのかわからないと言った感じで困惑している。


「さあ!今のうちに!!」


 俺たちは走ってその場から遠ざかる。途中、駆けつけてきた警官に女子高生をぶつけ、サングラスを取らせた。そして能力を使って警官を仲間にし、応援にやってきた自衛隊に警官をぶつける。俺たちが出口につく頃には、竹下通りはカオス状態に陥っていた。誰が敵で誰が味方なのかわからない。敵はそう感じているだろう。収集つくのかこれ・・・朱記さんは数時間で記憶が戻るようにしておいたと言っていたが、数時間もファイトさせる気なのか・・・


混乱に乗じて原宿を後にした俺達は、鶯谷にあるホテルにチェックインした。


「ちょっと、ここラブホテルじゃない!」


「しょうがないだろ。未成年で、しかも三人のうち二人は身分証明書すら持っていない子供なんてどこもお断りなんだ。」


「だったら漫画喫茶とかでよかったじゃない!」


「それは、ちょっとした好奇心というか下心というか・・・」


「下心は普通にだめでしょ!ほんっとぶち殺すわよ!!」


「いや、冗談なんだ・・・ガッッ!」


 綺麗な裏拳が俺の顔にクリーンヒットする。冗談に対して本気で返すやつがいるか!


「まあでも、ほんとに逃げ切れてよかったな」


「そうね。あなたの浅知恵のおかげよ。ありがとう。」

 浅知恵じゃねえ。でも素直に感謝はしてくれるんだな。これ、マジで嬉しい。癖になりそう。もっと言って!なんてね。冗談冗談。いてっ!ビンタされたんだけど?何この子、心読めるの?


「なにニヤニヤしてんのよ、ばか!」


 ニヤついていたのか、俺。というか、そういう静流も嬉しそうだぞ。待ってこれ、いい雰囲気なんじゃね?静流も今日の一件で俺の評価を改めた満たしだし。ああこの時間が永遠に・・・


「いやぁ、ラブホってのはすごいねー!!見てくれ!このボタンひねるとライトの色が変わるらしいよ?え、カラオケもあるんだ!みんなで歌おう!何歌う?僕はベガス歌おーっと!」


 いや、ベガスは無理だろ。そして俺たちのいい感じの雰囲気を簡単に壊してくれるな。


・・・楽しい。こんな気持ちはいつぶりだろう。小学生の時以来か。このまま研究所に攻めこむのはやめて、三人で旅に出るのも楽しそうだ。当然追手は来るだろうが今日の感じからして逃げ切れる自信はある。もちろん朱記さん頼りにはなってしまうが、静流と違って体力を消費するデメリットはないみたいだしな。俺は彼女たちにその提案をした。否定されてしまうだろうか。


「いいねぇ!ちょっと僕の仕事がめんどうだけど」


「私、カニ食べたい!カニ!ソーキそば!」


「え?いいのか?」


 まさか本当に承諾してくれるとは思っていなかった。ふぅ、俺の退屈な日常はどこへいったのか。明日からまた楽しくなりそうだ。とりあえずは東京を抜け出そう。彼女たちとならどこへでも行けそうだ。ここから俺の、俺達の新しい人生が



 しかし、運命というものは慈悲を知らない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る