絶望

 砂漠地帯を駆けてゆく。


 一歩、一歩、足を進めるたび砂煙が舞う。


 先程の出来事から時間は大して経っていないが、すでにあれが見えない距離まで離れている。


 とんでもない早いスピードで駆ける男の腕の中には、とんでもなくはしゃいで騒ぎまくる少女。


 「う〜〜!!うー!あー!あうー!!」


 「こらこら!口に砂が入るかもしれないだろ!大人しくしなさい!」


 前からくる風圧や、振動やら、砂埃やらそんなの関係ないとばかりに騒ぐコガメ。そんなコガメに甲斐甲斐しく世話を焼くのが定着しつつある流れに諦めを感じている目繰。


 あれから、力を何度も使い疲労を感じながら砂漠を駆ける。衝撃がある程度砂に吸収されてしまうためか余計に疲れが溜まっていくようだったが、無理矢理力を行使する。


(…っ!!)


「成れ!」 


(もし、俺の予想が正しければ…)


 地上で何かが起こっている。そう、アカメは言っていた。それは、先程体験したこととの関連性は確実にあると考える。


 さらに言えば、今まで人、ましてや生物にさえ会うことが出来なかった目繰の最初のファーストコンタクトとしては最悪だったのだ。


 そして、アカメはこうとも推察していた。


『バレている。1人だけ隔離されている』と。


(俺の隔離とやらが解けて、ああいうやつらがこの地に蔓延し始めているとしたら)


 それこそ、ほんとうに地獄を見ることになると軽く舌打ちをする。


「あうー!」


「はぁ…はぁ…まだ辿り着かないのか…」


 力を行使し続けて約1時間


 詳しくは分からないが、力を行使する度合いにより自身の体力が奪われることは理解した。


 そして、ある動物を足に染めること自体はそこまで消耗するわけではないが、ここまでくるのにかなりの回数繰り返し、行使し続けた。それが疲労として蓄積し、今反動として返ってきているという状況であった。


「ちょっと…はぁ…はぁ…休憩…」


「うー?」


 コガメを降ろし、目繰はその場でダンッと勢いよく座り込む。そして、ゴーグルを外しーー


「また森か…」


 目の前には森が広がっている。 


「う〜ん、まぁ…ありえる…か?」


 この世界にはある一定の期間を過ぎると底に沈み始め、またどこかで上書きがおこる。


 それは国単位で行われ、地形なども全てランダムだという。たまたま、森から砂漠へそして森へと続く道に違和感はない。


「考えても仕方ないか。とりあえず休憩させてくれ。」


「あい!」


 よしよしと頭を撫でる。


 顔をじっと見つめているコガメに微笑みで返す。




♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫♪♫




「よし、いくか」


 5分ほど休憩を取ったあと、オリーブドラブの外套についた砂埃をパンパンと払い、先程のゴーグルをポンっと消す。 


一方、コガメは紺色を基調としたエスニックなワンピース姿でこの地に合わせているのだろう。丁度境界に落ちていた枝を拾って砂の地面に何やら文字を書いている。


「う〜む、読めん。」 


「あう?」


「何でもない。それより、ほれ背中」


 カゴメを背中に背負う。 


 先程からコガメが重くなっているような気がするが、気のせいだろうか。


 "不を取り込む"


 そんな考えが頭をよぎる。


「チッ、早く目的地に行きたいけど体力がもつか…。コガメ!ほんとにまだこの先なんだな?」


「あい!」


「じゃあまた跳ぶか」


「いあ!」


 シンプル断れられた。


「やっぱこわかったか?でも、あと一回、我慢してくれ、な?」


「…あい」


 おんぶ越しでもわかる乗り気じゃない声。さすがコガメも疲れてきたようだ。そもそも、あれだけずっと騒いでたらそうなるのは当然である。


 ただ、目繰の体力的に限界は着々と近づいているのは確かだった。ここで、一気に跳んで目的地に近づきたいところ。


「成れ!ちゃんとつかまってろよぉ!….おら

っ!」


 助走をつけて、高く跳び上がる。


 さぁ、着地場所はどのあたりだ。と大体の目測をしようと跳んでいる最中、辺りを見渡す。


「……え」


 今飛んでいる方向にみえるのは中々な規模の森のようで、見渡す限り木々が生い茂っている。ただただその景色が視界にぶつかる。


 ここまま行けばどこかの木にぶつかることを懸念し、羽を生やそうと力の切り替えをしようとしていた。


 しかし、それが必要ないことが分かる。


「あれって…」 


 見たことがあるような、森の中に円形に広がっている空間がある。


 どうやら運良くあそこに着地できるみたいで、余力を使って衝撃をいなしながら着地する。


 コガメを下すことなく抱えたまま、状況を観察する。


 ここは先程まで自分たちがいた場所と酷似しており、進行方向にもその後ろも、見たような景色があった。


「……」


 歩く


「……」


 ゆっくり前に進む


 コガメは黙ったまま静かに、目繰の顔を見つめている


 二人の頬を優しく撫でる優しい風が吹く


 陽射しが二人を抱きしめるように包む


 ゆっくりと、そして静かに、歩く音と草木の葉が擦れ合い靡く音だけが聞こえる


 円の中心地まで来た


 まだ、歩くのをやめない



 (あの地獄の日々から、救ってくれた人がいる)


 (俺は一人じゃなかったと)


 (俺の日々は無駄ではなかったんだと)


 (それが、地獄を見せた本人だとしても)


 (俺は何度も伝えたいんだ)


(だから歩みを止めるわけには、いかない)


(なにがあろうと俺は伝え続ける、何度も)



 中心地からさらに進み、もうじき端に到達する



(この子はきっとアカメではないのだろう)


(パスがずっと繋がってたおかげか、なんとなく同じではないことがわかる)


(一本の線からさらに一本細くちぎったような、そんな感覚)


(だから、ほんとのアカメはきっとーー)


『間も無く無謀に挑む不乱に失敗した糸はこれより散る準備に入るだろう』


「……」


 どこまでいってもこの世界は地獄だ


『不変』


 それでも俺は進むのをやめない


『不変』


 今までも、これからもそれは変わらない


『不変』


 それが俺の、目繰の決めたやり方だから


『不変』


「なのに、どうして君の元へ行かせてくれないんだ」


 端から端まで歩いてきた目繰は足元を見る。


 そこには、土を抉ったあとがある。


 そっと、自分の足をその跡に重ねる。


『現地 不変』


「狂えないこの世界に感謝だな」


 自・分・で・抉・っ・た・土を足でまわりから埋めていく。


 タイムリミットまでもう間も無くなのだろう。


 だが、もう間に合うことはない。


 なぜなら、


「繰り返してる」


(不変 この地の景色は変わらない)


「アカメがやったんだな、俺のために」


 おそらく、この地に目繰を止めたのだろう。


 アカメの本心は分からない。だけど、きっと俺のためなんだろう。


『グラグラ』


 もうどうすることもできないとぼーっと突っ立っていると、腕に抱えるコガメの様子がおかしいことに気づく。


『グラグラ』


 先程からイヒがうるさい。


『グラグラ…』 


 コガメが震えている。


『ぐ…ラグ……ラ』


 あぁ 


『グ…ラーグ…』


 こんなにも


『グッラー』


 狂いたいと思ったことはない


「ばぁ」


『目繰巡ってメグリ通せ』








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