掻いたあと
いつ間にか目の前に顔があった。
(…うねうねの塊?)
人の形をしているが、それは細かいうねった線が細かく隙間なく密集しており、目の部位だけはっきり目だ。。
メグリ!
アカメに名前を叫ばれた
気がする。
今はどうでもいい。
先程使用した、脚の余力は少し残ってる。その余力を全力でーー
「ぶぅ……ギャァヴッ!」「っ!!」
横に跳ぶ。
跳んだと同時にその場にけたたましい爆音が重なり、砂煙が舞う。
(どうなったかなんてどうでもいい、すぐこの場から離れることだけ考えろ)
すぐさまコガメを抱えて逃げる算段を立て、コガメのいる方へ向かう。
「成れ。」
余力を使い果たしたため、再度力を発動させる。砂煙が舞った方向を見つめて震えながら立ち尽くしているコガメの元へ、一瞬で行き、抱え、振り返る。
「あ?」
一瞬で目線を宙に逸らす。
俺は今、何を見ていた?
そのまま後ろを振り返り、視線を下ろす。
先程まで自分たちが歩いてきた森が広がっている。
視線を横にずらせば、森を飛び超え着いた砂漠地帯。
そして、そいつがいた方へーー
「は?」
決して俺の目がおかしくなったわけではない。
「ゆ…き?きつね?ねずみ…みみたぶ…ぶた…たて…手…手垢…果樹…樹木…草…山頂…ウルト…トクハ、ハ、ハ…ハツメ……目…」
「ガーッブ」
「いっっでぇえっ!」
は、俺は今何をしていた、何を考えていた、何を見ていた。
それは動物であり、体の部位であり、防具であり、手から出る垢であり、果物であり、木であり、山、雪、目。
すべて雑に合成されたような、見ようによっては何にでも見える。不明な空間が広がり、分からない空間が漂っている。
「ガーッブ!」
「いっっでぇえっ!大丈夫だ、アカメ!戻ったから、、噛む力が強すぎるわ!」
抱っこをされているコガメだったが、目繰の様子がおかしいことに気付き、目の前にある左肩を噛む。力が強すぎるあまり、くっきり歯形が残っている。
震えは、もうない。先程まであんなに震えていたのに、震えがとまっているようだった。
あいつはなんだ。いや頭ではもう分かっている。もうそれしか当てはまるものがない。
こいつはーー、
「不成人、なのか?」
不成人。世界によっては不人、ブービーとも呼び名がある、生死を共存させた意味の分からない存在。
自身も既に不成人と成っているみたいだが、正直実感はない。
だが、見たのだ。
見てしまった。
そんなリスクしかないものに成らされた、挙げ句の果てに訪れる最期を見てしまった。
「…消滅」
全て、一致する。
「俺も、いずれこうなるのか…?」
敵が味方か分からない存在だった。例え、敵意がなかったとしてもここは離れるべきだと思った。しかし、今は必ず避けなければならない存在へと、認識が変わる。そして、あの時見たものに見覚えがあるような気がしてーー
「うー!」
(考えるな。切り替えろ。進め。)
「そうだな、とりあえずあれを意識せずに迂回して進むか。」
「あい!」
つくづくコガメには助けられてばかりだと、頭をわしわしと撫でてやる。キャッキャッと嬉しそうな声を聞いたところで、"それ"を迂回して進んでいく。
(なにも起こらないでくれよ)
左から円を描くように迂回し、"それ"を通り過ぎる。
「………」
「……」
「…」
「っぷはぁ!」
無事通り過ぎたことに安堵し、なんとなく止めていた息を吐く。
「む〜〜!!」
コガメも目繰のマネをして、ほっぺをパンパンにして息を止めている。
「ははは、コガメ、もういいんだぞ」
「む〜〜!!」
「おいおい、もう大丈夫だってば、ほら。ムニムニ」
「む〜!」むにゅむにゅ
「おい、危ないって!ほら、早く息を吐きなさい!ほら!」
手をワキワキさせて、コガメのお腹に近づける。
「ぷあ〜〜!」
「びっくりした…なんなんだよ…」
先程の怖がり方といい、コガメは先程の不成人に反応する様子。また何か起こるのかと構えるが、ただからかわれただけだったみたいだ。満面のドヤ顔である。
(うーむ、かわいい)
「さぁ、気にせず、止まった分進むぞ!捕まってろよ、コガメ!」
「あい!」
不成人、それは人であり人でないもの。
世界が違えど、それは共通して同じである。
"人であり"人でないもの。
目繰が今見たものは、ただの"垢"だと知るのはそう遠くない。
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