君のサイレンは

 目が覚めると目の前に女の子がいた。自分の身長の半分ぐらいの背丈の女の子はじっと透き通るような目で見つめている。


 「あうあうあー」


 言葉を発することができないようだ。


 自分のお腹にまたがる形で胸ぐらを掴んで激しく揺らされている。んー?


「うー、あーうー」


 必死に揺らして、まるで俺を起こそうとしているようだ。うむ、うむ。


「いや、なんだこれ?」


いや、なんだこれ?


 まるで状況が読み込めない。だが、さっきまでのこと。夢のことは覚えている。


 大丈夫。


 俺は一人じゃない。


 って思ってたけど、、、なんだこれ?


 本当に一人ではなくなった事実にひどく困惑する目繰であったが、すぐに冷静に戻される。


 まず、この極寒の地だった場所から緑生い茂る草がいい具合にクッションになっている所に移動していることに気づく。


「まずはっと、成れ、服が在れ、この少女に釣り合う服よ、此処に在れ」


 すると、生まれたままの姿だった少女が、ポンっ!と変身する。


 全身グレーのワンピース、腰丈ぐらいまである温かみのある白のマントのようなパーカーに身を包む。


 マントパーカーのフードにはなにか耳のようなものがついており、それを被せてみるとなんか駆け出したくなった。


「力入れすぎだろ。…妙に凝ってんな。俺の時もデザイン考えてくれよ。」


 今まで自分にしかこの能力を使ってこなかったが、他人にもこれが使えることにひとまず安心した目繰だった。


 この力として、主に二つある。一つは動物に成る。そしてもう一つが、服の生成。


 夢現の中、アカメに動物に成れると言ったものの、大まかにそれしか使ってこなかったのだ。あの状況でまだ心の整理がついていなかったので、簡単な説明として動物と言ったが、自分に見合う服の生成もできるのだ。この力とは長い付き合いとなるが、中々に便利な能力として重宝している。

 

 先程からずっと俺をゆさゆさと揺らし続ける少女に話しかける。


「あー、えっと、お前アカメか?」


 体や髪の色、瞳の色が違えど、あの夢の中で出会ったアカメに似ていた。そのまま成長すればきっと瓜二つな双子と見間違うほどになるだろう姿だった。


「うー?」


 首をコテンと傾げる姿もそのまんまだ。


 どうやら、言葉が通じないらしい。もしこの少女がほんとにアカメなのだとしたら一体なにがあったのだ。俺が寝ている間になにが…。


「あー!あー!」


 目繰が目を覚ましたことで、揺らすのをやめたが、今度は顔をペチペチと叩き始めた。  


「こらこら、やめなさい。そうだっ!この際名前をつけてやるか。…うーむ、そうだなぁ。コガメ。うん、これだな。」


 なかなかいいセンスだろ?と満更でもない様な顔で少女に名前つける目繰だが。


「うー!ううー!うー!!」


 言葉は通じてないと思っていたが、もしかしたら響きやニュアンスで意味を感じているのかもしれない。


 そのか弱い体からでると思えない程の力をで目繰をぼかぼかと叩いてくる。


「うおっ!いでっ!いたいって!まてまてまってくれ!い、今だけの期間限定ネームだよ。また後でちゃんと考えるからこれで我慢してくれ!」


 非常に不服と言わんばかりに目繰を睨みつけ、頬をパンパンに膨らませる。


 一方目繰は、目を逸らして誤魔化して改めて現状を考える。


(あーやっぱこいつアカメだよな。計画はどうなったんだ?)


 まだアカメだと断定はできないが、瓜二つな容姿をしているコガメを見て、あいつを殺すという計画が本当に上手くいっているのか不安に思ってしまう。


「あーうー」


「はは、お前元気付けてくれてるのか」


 すると、その小さな手でメグリの真っ黒な髪を優しくよしよしと撫でて、元気出して?とまた軽く首をコテンと傾げるコガメ。


「一人じゃない。」


 コガメの脇腹を両手で囲い持ち上げ、仰向けの体制から立ち上がる。


「あー」


「コガメ、お前が俺を治してくれたんだよな?」


「あい」


 コガメをぶらーんと宙に浮かせたまま、視線を合わせる。


 雪山からのダイナック下山を経て目繰の体はボロボロだったはずだ。修復の力はあれど、夢の中のアカメが言うように治るスピードが早いのだ。

 

 ここにいる、コガメが何かをしてきっと治してくれたのだろう。


 じーっ


「あい?」


「んー、白?銀?雪に染まっちまったか?」


 瓜二つとはいったが、髪色や目の色が白く、光に照らされると銀色に輝くようだ。


 いつまでも抱えてるわけにもいかないので、そっと地面に降ろす。


 こちらをジッと見つめたまま、自分を見上げているコガメの頭をワシワシと撫でる。


「状況が分からないが、とりあえずコガメを連れて行くしかないな。」


 迷うなら進め。この世界で幾度もしてきた行為。


 体の、魂の奥の奥まで染み付いているのだ。


「方角はわからんからとりあえず向かって左!こっちに行きますか!」


「……。」


 さぁ、行こうかとコガメの手を引こうと意識を左に向けて歩こうとするが、コガメがその場から動こうとしない。


「うー!うー!うー!」


「こっちなのか?こっちにいけばいいんだな?」


 行こうとした反対側、右側へ指を差し手を引っ張る。


(きっとそっちに不を取り込んだアカメがいるのかもしれない。こいつがアカメだった場合、またその時に考えるか。とりあえず、追いつくこと、そしてーー)

 

「成れ、武器が在れ、俺に釣り合う武器よ、此処に在れ」



 瞬間、眩い光が目繰の左の掌から発生する。


 手に現れたのは、ドス黒く全て塗りつぶされた短槍の片鎌槍。短い柄の首の部分には二つ、管留めのようなものが続けて存在している。


「あうー!!!」


「よし、成功だ…。解!」


 隣で目をキラキラさせて、興奮冷めやらない様子のコガメを置き、左手から出現させた槍を消す。


「今までなんか頭に浮かんだ言霊か詠唱みたいなのを言ってたけど……。」


 今ならなんでもできる気がするのだ。


 なんにもでも成れる。染まる。染められる。


「気合い入れろぉぉ!オラァアア!略式ィ!在れ!」


 再び目繰の左手にはーー


「うぉっしっ!!成功だぁ!!」


 シンプルな木製ハンマーがそこに在った。


「うー!うー!うー!うーあー!」

 

 目繰は新たにこの力を昇華させた。それは一人ではできなかったこと。自分は一人ではない。そんなささいなことが分かったことでさえ、目繰にとっては何にでも成れることに足る。


「解!!ふぅふぅ、意外と疲れるな、これ…。」


「う〜〜〜〜!!!!!」


 武器を出せる。しかし、疲れる。


 このことが分かったのは目繰にとっては嬉しいことだった。

 

 そして、横でついにサイレンの如く上に向かって鳴くカメ。いやコガメ。興奮が嫌でも伝わってくる様子にニヤッと返す。


「よし!じゃあいくか!」


「あい!」


 手を繋ぎ、進み始める















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