"逅"時現夢 ⑥

まず、と前置きをする。


「私の、いいえ違うわね。私たちの目的と手段を話すわ。あなたにはそれを聞く権利と義務がある。」


 正直、まだ心の中は晴れてはいない。永い時を生きてきたのだ。報われたからといってすぐに収まるものではない。


「まだ、自分の中にある気持ちがぐちゃぐちゃになるかもしれない…です。」


 しかし、


「ふふふ、だから言ってるでしょう?その時は全て受け止めるわ。あと、敬語とかやめにしないかしら?昔馴染み…でしょ?私だけかもしれないけれど。」


 時間が解決してくれるだろう。

 深く深呼吸し、乱れた息を整える。 


「ふぅ、わかったよ。アカメ。」


「改めて、自己紹介しましょう。」


 アカメはメグリと会うのは初めてではないが、改めて自分を知ってもらうために自己紹介をする。


「私は多世界の内の一つ、『ミートル』出身のアカメ・グレードリング。代々受け継ぐ"堂"の堂主マグル・グレードリングの娘であり、生まれつきの不成人。この世界に上書きされる前に、誰も開けることができなかった禁書庫に入り最重要禁忌物『自動非叙述 主loVe全書』に触れていたおかげで底に沈んでいた私をイヒが助けてくれて今に至る。ちなみに、私に過去があるのもこの禁書のおかげってわけ。こんな感じかしら?」 


 まだ、そういうことは理解できない。けれど、言葉のままそれを受けとり、自分もそれに応える。


「おれ…は、俺は目繰里無。出身は分からない。色々なものに成れる、主に動物だけど。能力って言えるものなのかそもそも能力ってなんだよって感じなんだけど、こいつに意思はある。会話はできないが、たまに思念を送ってくる。多分それがイヒってやつなんだと思う。能動的発動と受動的発動があるけど、正直制御はできてないからごっちゃになってる。そして…過去はない、けど君が…アカメがいる。」


「ふふ、そうね。私がいるわ。」


 互いの自己紹介を済ませて、書庫の一角にある、机に二人が移動し、向かい合わせに座る。


「それはそうと、お互い色々聞きたいことがあると思うのだけれど、時間のことはあんまり気にしなくていいわ。あなたの場合、夢から過去の"堂"に接続されていて、上で目が覚めない限りずっとここにいれるはずよ。しかも、凍死と修復が繰り返されているからまだまだかかりそうね。」


 あのダイナミック下山の後、目繰の状態は今も雪に埋れている。凍死とはいったものの体の至る所に修復されなければならない箇所がたくさんあるのだ。修復速度がわずかに早いものの、意識を取り戻す程の状態に戻るのはまだかかるであろうということだった。


「あと最初にこちらが聞きたい重要なことが一つ。」


 アカメが切り出す。


「メグリ、あなたは過去はないと言っていたのに、なぜ名前が思い出せるのかしら?」


 誰にしても過去は持ち得ないのだが。


「それは名前はだれでもあるだろ?そんなこ…と…。」


 確かに覚えているのだ。最初この地で目覚めた時、うろ覚えだったが自分の名前を覚えていた。


「この世界で過去を持つのことをこの世界は認めていない。全てあいつの裁量によるものだけれど、それが覆すことができた者は存在しない。メグリ、あなたは何もの?」


 目繰は考える。自分がこの地で目覚めた、つまり自分もこの世界に上書きされて来たということだ。そして、上書きされたということは、される前の世界で生きていたということになる。


「そんなの俺が聞きたいぐらいだわ。それに、俺は…自分が何ものなのかって考えたことはたくさんあるんだ。」


 目繰が切り出す。


「俺も聞きたい、俺がやってきたことにどこまでアカメが関係してんのか。」


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 ある日のこと、今日も一日歩いて歩いて歩きまわりその場で座り込んだ時の出来事。


「寝よ。」


 既に周りは暗闇になっており、どこになにがあるのかもわからないくらい、見えない。


「今何時だっけー?」

「えっとー少しお待ちくださいっ」

「遅いなー遅いなー!いつまで待たせるつもりだよー」

「てめぇが自分で確認しろよ」

「え?」

「え?じゃねぇよ1人じゃなにもできねぇ、ボッチやろうが。」

「ボッチ野郎はテメェだろうが、こうやっていつもいつも独り言いいやがって!勝手に聞くことになるこっちの身にもなれよ。口の中に手入れて舌引っこ抜いてそのままお前の顎思いっきり閉じてそれからそれから」

「ぃんまほへやってま〜す」

「え?」


ちゅるにゅるっゔぇぇええぎゅりうううっうううううゔんがかんがかんがかんかんかんかん  かん


 ある日のこと。ついに飢え死にから耐えれず自らの舌を抜き、その舌を強く握りしめたまま顎をもう片方の手で下から上に打ちつける。何回も。何度も。舌がちぎれるまで。


 ポテっと落ちた小さな生まれたばかりの蛇を見つめて、 


「ゔぉゔぁゔゔぃ」

 おやすみ。


 例えば、雪山にてに行った行為。あれは、ダイナミック下山とは言ったもののただの投身○○だった。その前は、雪山山頂にて長時間裸になることの全身凍傷○○。その前は、アイスクライミングをしてからの自作自演雪崩滑落○○。その前はetc……


 安易に自分を傷つける行為を様々なシチュエーションごとに行う。これが、目繰の日課、癖、マイブーム。明らかに異常。


 この世界で自分しかいない状況で、周りはいずれ全て沈んでゆく。後にも先にも自分にしか目を向けるしかなかった。そうして思いついた、最悪最高の方法がこれである。その中にイヒを利用して行ったこともあった。その中で、体が修復する条件がわかったとしても目繰にとってはささいなことだった。合間に挟む痛みなども含め、暇つぶしと快眠のための道具としてこれを行なっていたのだから。


 なぜ、目繰は不死身なのか。


 魔法、マナ、術式、言霊、傷に手を当てて詠唱し傷が治ることも、ない。


 この世界で怪我をした"程度"では傷は治らない。


 死ぬもしくは死ぬと仮定された怪我が修復する条件となる。


 それを無意識に理解していた目繰はそれを繰り返した。


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「まず、3つ。」


 アカメに3本指をみせて質問する。 


「俺が死なない理由と沈まない理由そして、人間がいない理由だ。」


「もっともな質問ね。前2つは私が関係していて最後の一つはあいつが関係している。」


 即座に返答する。


「前二つに関しては結論から言うわね。私とメグリは繋がっているからよ。そして、あなたが地獄をみることになった原因でもある…。ごめんなさい。」


 アカメは許されない行為をした。アカメはもうメグリを裏切ることはない。決して。


「それは…最初の俺がここにきた時からってことだよな?」


「ええ、そうよ。あなたを膝枕した時に魂を結んだの。私たちの魂は一本の線になって内に存在している。その線を結んで、元から一本だったかのように作り変えた。そして、どちらかが寿命で死なない限り生き続けることができる。あなたには本当に最低最悪なことをしたと思ってる。」


「俺はもう、いいんだ。気にしてない。一人じゃないと分かった時点でもう救われたような気がするんだ。だから…もう謝んな。」


 目繰は今まで地獄を味わい続けて、その味に飽きて飽きて飲み続けた。


 しかし、あとはもう今あるものを消化すればいいだけになった。


「わかったわ…ありがとう許してくれて。これからは私があなたに報いる番。それと、実はねこれは、パパがね、作った術だったの。パパが…私のために作ってくれた最初で最後の術。」


 生前のアカメの父であるマグルはアカメのことを愛していた。その愛の証である術。それを相手に地獄を見せると分かりながら行使するのは言葉に言い表せないほどの苦渋の決断であったろう。


「優しい、父ちゃんだったんだな。そのおかけでこうして俺も生きてこられた。その父ちゃんにお礼を言わねぇとな。」


 二人の間にあるのはただただ、感謝のみ。


「口調は変わったけれど、優しいのは変わらないのね。パパはもういないけど、その感謝は届いてると思うわ。」


 アカメはニコりと微笑み、届くわけでもなし、陽が差し込んだ。

 咳払いをし、逸れた道を戻す。


「最後の質問だけど、メグリの存在はあいつにはバレてる。"人がいない"なんてありえないはずだもの。私含め全ての生物は上で多少の時間を過ごしている。そして、時が経てば沈んで煮込み料理にされる。その事実は変わらないのだけれど、あなただけ、認知された上で存在だけ隔離されていたのかもしれない。」


 なぜ、この世界に人がいないのか。


 それは目繰がすでに監視対象となっており、なにかの企みによって隔離されている。というのがアカメの予想だった。


「じゃあ俺は…本来もっと人と出会えていたけど、そいつのせいで一人ぼっちにさせられていたってことか…。」


「そうなるわね…。でもねメグリ、よく聞いて。ここから最初に言った目的と手段についてなんだけれど。私は、私たちはそれをすでに予想して動いていた。」


 私たち、予想。疑問は尽きない。


「アカメは一体、その禁書でなにを知ったんだ?ひじょじゅつ?ってやつは未来が見えるのか?」


 アカメのこの世界に対する知識情報、あるいは力。それが手に持っている禁書に全て関係していると考える目繰。


「この『主loVe全書』には未来のことは書かれていないの。だけど、あいつに繋がる誰かが、日記みたいなのを書いているみたいなの。"堂"は散らばっている。そして、禁書庫のある書物の内、7冊だけはそれぞれ繋がっている。ここにはこの1冊しかないけど、他の"堂"にいけばもっと何か分かるかもね。」


 明かされる禁書の真実。その内、各それぞれ散っている"堂"に存在する7冊。もし、この世界から出ることができれば、それを探しに行く旅もいいかなと、そこにアカメがいてくれたらと、思う。


「うーん、よく分からんけど、その禁書には例えばなにが書いてんだ?」


「……主に愛を綴ったもの。」


「は?あい?」


「…そうよ。この禁書の持ち主である女性は一人の主ぬしと呼ばれる男性のことを愛してるみたい。ほとんどそんな内容しか書かれてないけど、たまに役に立つことを書くのよ。」


 その隠すつもりがないタイトルの禁書の内容は主と呼ばれる男性への愛をひたすらに綴っているという。その中でたまに役に立つとは、色々勘繰ってしまうものだと思ってしまう。


「お前よくそんな愛の囁き本をずっと大事そうに持ってるな。もしかして、それを見たいがためでもあるんじゃ…。」


「ち、ちがうわよ!誰が今まで恋愛経験したことない女よ!話がズレるから黙って聞きなさいな!話を戻すわよ!」


意外とまんざらでもないんだなと思ったがそれは口にだしたらまたドヤされるので、話の続きを黙って聞くことにする。

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