"逅"時現夢 ⑤
「あなた…メグリ?」
「いや、あの、これは、その、」
人がいる。
「ぼ…くは…おれは…目繰です。」
「やっぱり…。」
(おかしくはないわね。未来の自分になにか起こっている、もしくは起こったせい。つまりは…。)
アカメは何かを確信している。
一方、目繰は半放心状態で、じっとアカメを見つめたまま、内側の異変を感じていた。
人が、いる。
(それにしても…。)
「メグリ、あなたは…あれから何年、上で?」
それは、ただ単純にあれからどれくらいの時が経ったのだろうという疑問。そして、その裏には…。
(気持ち悪い…。)
目繰は、自分の内側で起こっている異変がどんどん大きくなっていくのを感じる。
「え…っと、正直、かぞえ…てない…けど、」
年数は数えてない。
しかし、沈んでいった数々の文明は数えている。
「底?…にしずんでいっ…たのは…9696…」
ギリっと歯の軋む音が聞こえる。凡そ一年で国が沈む。そして、また上書きが起こる。つまりは…
「そう…な」
「おく」
あまりに長く。あまりに多く。
「」
しばらく、互いに沈黙が続く。
「」
その沈黙を破ったのは意外にも目繰だった。
「あの……。きみは、人ですよ…ね?」
不成人、生きてもいるし、死んでもいる。そんな存在。ただ、目繰はそんなことどうでもよく、
「さっきも聞いていたと思うけど…、人間の形をして意思疎通が図れるなら私はそれを人間と呼んでいるわ。」
「…っ!」
彼女から、自分は人だと、そう言った。
今自分の前には人がいるのだ。
瞬間、何かが内側から何かが湧き出てくる。
人は、一人では生きていけない。それは真か。そう問われればほとんどの人が自分が一人でしばらく過ごす想像を一瞬でもするだろう。ただ、それは他人を知っているから。
しかし、人という概念は知っているが人を知らない青年はそもそも一人で過ごすということを考えない。考えるに至らず。この質問は愚問。論外。言うまでもなく。終わり。
なぜなら、すでに一人で生きているのだから。
だが、その戯言に参加できるくらいに、他人を知る時がきた。
底に来てからというもの、味わったことがない感情に揺らいでいた。
上上下下左右左右、円を描いてぴょん。
わかりやすく視線を泳がす。
「えっ…と、はっ、はっ、うぇ…ぐるっ……ぢぃ…っ!」
目繰史上、今初めての動揺を経験し、自分の中の何かがドバドバと蛇口全開で出まくっている。
(人っ!ああ!人!ああ人!人!ああっ!)
今まで溜め込んできたものがここでぶちまけられる。
さっきまで自分は本棚に身を隠し,二人の話を聞いていた。夢の中だと分かっていても、堂々と二人の間に入っていこうとも思わなかったのだ。それは、今まで上で一人で過ごしてきた経験とこの"堂"に来る前に砂中で経験したこと、そして今現在での状況のギャップがあまりに大きすぎたゆえに混乱していた。
(ああ!人は…いたん…だっ!俺は…ひとりじゃなかった…っ!)
それは喜びか、怒りか、哀しみか、楽しみか。
「ぇ…ッグ、ひっグ、うぅ、うううぅ。」
涙が止まらない。出ることなどないと思っていたのに。立っていられなくなり、その場でうずくまる。
今まで感じてこなかった喜怒哀楽が彼の中で産声を上げ、すくすくと成長していく。
しかし目繰は溜まりに溜まった人欲を発散する仕方を知らない。勢い余って告白をしてしまったが、それも本意ではなく無意識の中で行った行動である。内側で感情が奔流する意識が体が制御できない。
「私じゃあなたのことを理解することは難しい。」
「きっと、いろいろありすぎたんだと思う。全部私のせいだわ。」
「私にできること、私の偽りない気持ちをあなたに伝える。そのあと、あなたがどう発散しようが私はあなたに従う。それをしても足りないくらい、あなたには残酷なことをした。」
アカメは必死に自分の中にある感情を抑え込む目繰にゆっくりと、近づいていく。
「や…め………ちか…づ……な!」
左手で振り払う動作をし、アカメを睨みつける。
しかし、
「全て、受け止める。」
一歩一歩、ゆっくりとだが歩みをやめないアカメ。ついに彼女を見上げるまでの距離にきた。
「私を」
同じ目線までしゃがみ、今もなお呻き声を上げながら必死に押さえ込むメグリを優しく。
優しく抱きしめた。
それはまるで、生まれた赤子を抱きしめるかのように。
(やめろ!)
歩いてくれて。
(やめろやめろやめろやめろやめろ!)
周ってくれて。
(俺が、俺で、なくなるっ)
生死を繰り返してなお、進み続けてくれて。
(自分が制御でき…な……い……?)
ほんとうに。
(俺が、この世界を…)
ありがとう
(歩いてきたんだ。ずっと。)
〝ありがとう〟
(歩いて。歩いて。ずっと、歩いて。)
〝〝ありがとう〟〟
(つらくて、つらくなくて、寂しくて、寂しくなくて、悲しくて、哀しくなくて。)
〝〝〝〝ありがとう〟〟〟〟
(楽しい。そんな感情でさえ、この世界には、認めてもらえなくて。)
〝〝ありがとう〟〟
(何度も死んで、その度、治って。治る過程を見ながら心を歪に偽った。)
〝ありがとう〟
(そんなの関係なくてっ!俺はただっ!)
ありがとう
「意味なんてなかったと、思っていた。でもっ!」
「ありがとう」
「意味があった…っ!俺は最初からひとりじゃなかった…っ!俺は!俺には!こんなにたくさんの人のために…っ!」
意味があると、あなたの人生には意味があったのだと。
ありがとう、その一言が欲しかったわけではない。
ただただ、自分は一人ではなかったのだと。
それが永年開くことがなかった世にも奇妙な花が開いた瞬間であり。
目繰が今、報われた瞬間だった。
人は、一人では生きていけない。それは真か。そう問われた時、人はどう答えるだろうか。真か否か。そんなもの論外と愚論と戯言と吐き捨てるだろうか。人は一人でも生きていける。これも間違いでは、ないのだろう。一人でしか生きてこなかった人間がいたのだから。
そしてこれは、その意見をただ一人の人間が変えただけ、それだけの話である。
「あとは、私達に任せなさい。決して無駄にしない。させない。」
そう、耳元でつぶやく。
「まだ、時間はたっぷりとあるの。本当の答え合わせといきましょう。」
『※※※※※ kameレオ※
なりきる。染まる。死きるぐらいの時を※み続けたその※。自分の頭の中のイメージでなりきる。いつだって※※は廻り巡って※※※った。』
ガチンッ
『祖術式 一時的解放』
『対象がこの場にいる限り閲覧 再生可能』
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