"逅"時現夢 ②

ここからは覚えてない…。



 そもそも俺沈んでたのかよ。渦巻落としって建物だけじゃなかったんだな。



 んーと、確か眠ったあと普通に起きて…そうそう、結局屋根なんかなくて……。ん?いや、違うか?なにかやっぱり忘れてるよな。でもめちゃめちゃどうでもいいことだったような…。なんせ大分昔のことだし、、、ん?え?え?え?まちまちまちまち。俺も沈んでるんだけど?夢の中だろ?これ。え?まってまって。全然冷静なんだけど…なんだけど…私…


今…


沈んでます。


………


……



.


。ちゃぽん。イヒ






「んん」



 砂の中に沈んだ。メグリはその事実は知らない。知らないまま目が覚め、眼を軽くこする。



(あれ?まだまっくら?ほんの少ししか眠ってなかったとか?結構疲れてたはずなんだけどな。まさか一晩中眠っちゃってのかも…。しまったなぁ。これじゃあ住んでる人も……。あれ…?なにかおかしいな。)



 異変に気づく。



(なんか耳鳴りがうるさいな。それに…)



「あー、あー、やっぱり。声がこもってる。」



 外ではない。なにか空間に囲まれている感覚。自分が発する声に対して響きがない。音が反響せず、全て吸収されていく。



(もしかしたら、家の人が僕のこと見つけて、入れてくれのかな?そう!きっとそうだ!でもまっくらなままだけど。留守にしてるのかな。もうちょっとだけ待ってみようかな。)  



 それからしばらく待っていても戻ってくる様子はない。



(遠出してるのかもしれないな…。だってこの辺、なんもなかったし。行商人もこんなところ普通来ないよね。)



 新鮮な空気を一度吸おうと思い、外に出ようとするが、目の前が見えない。目が慣れないのだ。普段なら多少目が慣れてきて、うっすらと見えるのだが辺りを見渡しても全く何も見えない。



(全然見えないや。ちょっと危ないけど手探りで窓を探すしかないね。)



 ゆっくりと足元に注意しながらゆっくり立ち上がろうとする。



ザクっ



 立ち上がり、手を前にかざして物に当たらない様にそのまま一歩ずつゆっくりと前に進む。



ザク ザク ザク ザク ザクっ



進む



ザク ザク ザク ザク ザク



進む



ザク ザク ザク ザクザク



進む



ザク ザク ザク ザク



まだ、進む



ザクザクザクザクザクザクザクザクザク



壁は 壁は    壁はどこだ



ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク



僕は今走っているのか歩いているのか



ザクザクザクザクザクザクザクザクザクザク



怖い



ザクザクザクザクザクザクザクザク



怖いよ。助けて。




ザク ザク  …ザク …ザク



助けてよ。誰か…。








(よろしいわ。滑稽ね。きなさい。)



「へ?」



 瞬きを2回する。



 パチっ



 壁



 パチっ



 目の前に黒よりも暗い、丸い模様。



 何も見えない状況でもそれがはっきりと分かる。



 今自分が立っているところから先が、急に色付く。



 上下左右、直径何センチかも分からないほど巨大な丸模様。



 感覚が狂っていく。自分の存在が小さくなっていくような感覚に陥っていく。




 それが突然現れたのに混乱し、先程の声、今の状況、さっきまでの状況相まって自分はついにおかしくなってしまったのだと。



 段々。


 段々おかしくなっていく。



 カタカタカタカタと歯が鳴り始める。手が震える。腕が震える。足が震える。目の前が震える。全てが、震える。




「あぁもうむり耐えられないなにこれ僕はどこにいるんだ閉じ込められてる?実験されている?何が起こってるのかわからない砂のなかだろここ歩くたびに砂の音しかしないあはははあははははは砂の中に閉じ込められるのかぼくは今から死ぬんだ!あはははははははははははこのまま生き埋め窒息飢餓死ぬしかないじゃないかそれとも利用されるんだおうぇっ!あぁぁあああああ臓器をぶちまけてやるぅぅうううううう!!!!!うわぁあああああ!ああ!そうだ最初からおかしかったんだ!こんなところに人がいるわけない屋根があるから人がいる?ははっ、こっけいだよ滑稽さっきの声がいってたのと同じだ!地面から"屋根"しか見えてないんだいたとしても生きてるわけないだろぉぉおおおおおお!おかしくさせられてたんだここはなにかの実験場だ僕は確実に死ぬんだろ見てるんだろこの光景をいいよいいさ笑えこの空間で暴れまわって声も生も枯れ果てて死んでやるうっ!」



 いざ、暴れまわろうと、もはやこの丸い模様が何なのかもわからないままそれを目印に奇声を発しながら近づくこうとする。












    ぱちり



「えうへえあっ?」




    ぱちり



「」




「○%×$☆♭#▲!※」





 巨大な黒模様



 模様の上からほんの少しだけ発光しているグレーのカーテンが下がっていき…また上がる。そして、それがもう一度繰り返し起こったとき、確信する。




 目。目だ。これは目だ。




 急激な恐怖。



「ヒピュー」



 声が枯れ、喉が上がりきり、やっとのことで絞って出した声だった。



 その目と目を合わせたまま、ゆっくりと後ろに下がっていく。



 目と認識してしまい、その巨大すぎる目がこちらを向いてる。


 

 メグリが動くたびその目が動くような気がする。



 ミリ単位でゆっくりと、ゆっくりと、ゆっくりと、前を向いたまま音を立てずに後ろに下がる。



………


……


ザクっ



「うわぁぁああああああ!」



 その足音を合図に、後ろに振り返り一気に逃げようとする。



「へぶっ」



 ぶつかる。



「え、え、なんで、なんで、なんで、壁が……。違う!ずっと歩いてきたじゃないか!あれ、なんで、上も横も全部壁になってる…っ!」



 自分の真後ろにいるであろう巨大な目の方向以外、なぜか全て壁になってしまっている。



 今にもまさに巨大な目、それから連想して巨大生物が自分を食べようと迫ってきている体で逃げようとした矢先。



「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」



 後ろを振り返る勇気はもう、ない。ただ、殺される気配が近づいてくるのを感じながらその場で小さくうずくまる。



「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさ………………。」




 無音のまま、身動きせずじっと固まる。



(あ、あれ…。いなくなったのかな…。)



 ほんの隙間。僅かに見えた光を勇気に変え、目を瞑りながらそーっと、そーっと、早送りにしてやっと動いているとわかるぐらいのスピードで、振り返る。



(いないいないいない。そんな生物は存在しない。全部負の感情が起こした幻覚だ。大丈夫。絶対に大丈夫。僕は絶対に大丈夫。生き残るんだ。)




 ついに今、幻覚だと証明できる準備は整った。


 後は、そのほんの少しの勇気を振り絞り瞼を開くだけ。


 それだけ。



(いくぞ、いくぞいくぞいくぞ!僕はやるんだ!)



 鼓舞する。



「僕をなめるなぁ!どんな状況でも僕は諦めなかった!逃げて逃げて逃げ回った!絶対に!絶対に今回も逃げて廻って生き残るんだ!よし!」




 めのまえには、、、、、、なにもない。




「は、はは、ははは、ははははは!」



 笑いが込み上げてくる。



「やったぞ!僕は賭けに勝ったんだ!また今日も逃げ切った!僕は逃げて逃げて逃げ回る!廻るメグリだ!…あれ?僕はなにを…。記憶が…。」


瞬間



「イヒ」



奈落声。暖風。そして、不のにおい。




「あぁ、そうかすでにもう終わってたん


パクッ。











「待ちくたびれるわ。何やってるのよ。早く来なさいよ。ほんと、滑稽ね。」






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