"逅"時現夢 ① -あうときゆめうつつ-
俯瞰してみている。そう、これは○回目の目覚め。この世界で降り立った始めの記憶。
「あえ?なんだここ?う〜んと…えっと…名前は?え〜っと…メグ…なんだっけ?」
目繰がこの世界で目覚めてから今まで、一度もこの世界に降り立つ前の記憶を思い出したことがない。頭の中で昔の記憶にひっかかりがありそれが中々思い出せない、ということもなく。
思い出せない、でもない。
思い出というものが、ない。
しかし、メグリがそこに違和感を抱くことはできなかった。
この世界に来た時点で全ては終わっている。
過去を思い出すことに関して、この世界は認めていない。この世界に来た時点からの思い出しか許さない。認めていない。
この世界で始まり、この世界で全て終わる。
「あー、あー、なんか頭の中に思い浮かんできそう。んーと、メグラ、メグリ、、メグル、メグレ、メグロ」
「うん、メグリっぽいね」
この時点でメグリは異質だったといえるだろう。
本人に自覚はないが、一部を、最初から自分の名前があるということを、自身で把握していること自体イレギュラーな存在である。
過去を思い出す行為自体許されることではない。
ラリルレロ、らりるれろ、あいうえお。
五十音図。
この世界から生まれる言葉は皆、この世界から生まれたものではない。
過去を思い出す行為は許されない。これは覆すことのできない不変のルールである。イレギュラーな存在は省いたとして、"上書き"された住人たちは実際に過去を持たずこの世界で生きて終わっている。しかし、文明的な道具やその世界の一般常識は彼らには残っていた。
過去はないが知識はある。
つまり、、、、、
"記憶から知識を思い浮かべる"
物は言いようである。
全ては裁量によるもの。
♪
辺りを見渡す。
(ここは、どこかの田舎なのかな?いや、田舎にしてはあまりに自然がなさすぎる。まだ日も上がりきってないからうっすら明るいな。ここは砂漠地帯?地面も割れてるし、、渦?)
この世界に降り立った頃、最初の見たのは砂と干からびた大地とひび割れた大地からまばらに生える枝であった。日の出前ということもあり、辺りがうっすらとしか明るくない。目の前に見える景色がそのせいで、自分の目の届く範囲よりも、もっともっと奥まで広く荒野が広がっている様で。風音すらない、耳鳴りが聞こえるぐらいの静けさがさも当たり前かのように思えた。
そして、地面に所々、偶然なのか意図的なのか、中心に向かって渦が巻く様に見えている。
(ど田舎もど田舎。怖…いことはないな。なんだろここ。僕はなにをしてたんだっけ?全然分からない。そもそもここにどうやってきたんだ?それとさっきからこの状況が当たり前かのように思えてくる…。これが普通?なわけないよな?とりあえず、僕以外に誰かいないか確認をしよう。もしいたら話を聞いてもらって今の状況を確認したいな。ここがどこなのかもちゃんと確認もしないとな。考えても仕方ない。歩こう。方角は…太陽はこっちだから…。なんだかあんまり関係ない気がする。こういう時は直感が大事なんだよね。左!こっちに進もう!)
まずは人を探した。
いきなり見知らぬ土地で突然目覚めたのだ。人を探すのは当然の行為だと言えるだろう。
辺りをキョロキョロと見渡すが、今自分が立っているところは辺境も辺境、何もない所らしい。
「うおっと。危ない。なにこれ…くっついてる…。さっきはそんなことなかったはずだけど。え、、、ちょっと…動いた、、。」
その場から動きだそうとした瞬間、砂がいつの間にか足に纏まりつき始め、その場から動けなくなってしまう。そして、足はそのまま固定され上半身だけ不恰好に前のめりに倒れてしまいそうになるが、前のめりになっている体を腕で支えながらなんとか勢いをつけて反動力で立つことに成功する。
「ほっ!んんん!っと!立てた。」
(それにしても困ったぞ。ふーん、触った感触は柔らかいな…。なのにまったく抜け出そうにない…。不思議だ…。)
足が沈み続けている様子はなく、ただ纏わりついているだけで抜け出そうと足を引っこ抜こうとしてみるが、抜け出せない。
(不思議だけど。ふふっ。)
恐怖感は、ない。
それよりもまるで、砂が目繰を抱きしめているかのようで、フッと頬を緩ませる。
♪
しかたがないので、その状態のまま辺りをしばらく見渡し続けていると、蜃気楼が急に晴れるかのように、遠くないところで屋根が見えはじめた。
(屋根っ!人がいる!砂は…おっ!よし!頑張れば歩けるぞ!まだ寝てるかもだけど、いくしかない!)
現時刻は分からない。しかし日の位置的に考えて朝早い時間だと推測し、寝ているところを起こしては悪いと考えたが、とにかく人に会いたかった。自分の置かれている状況を誰でもいいから相談をしたかった。
レンガ調の屋根が見えている方向に歩くが、足取りは重い。砂が足にまとわりつくように柔らかく、歩くたびに地面に埋もれそうなほど体をもっていかれる。
ざくっざくっと確実に一歩ずつ進み、やっとこさその場所に着いた時にはもう周りがほぼ見えないぐらいまでに日が落ちていた。
「はぁ…はぁ…。遠くない距離なのに
…こんなに時間がかかっちゃったよ…。はぁ。」
夜明けから夜更けまで。
休憩なしで決して近くはない距離を重り砂をつけたまま歩いてきたので疲れ果てその場で倒れ込む。
夜更け。一日中この屋根を目指して歩いてきたが人が出てくる様子もない。
(住んでいるのはもしかしたらお年寄りなのかもしれないな。あんまり夜に押しかけるのはよくないかも。)
こんな遅い時間に押しかけて起こしては悪いと思ったので、その場で赤子のように丸まって寝転び、夜が明けるのを待った。
(屋根はあと少しの距離にあるんだ。とりあえずここで寝かさせてもらおう。人が出てきたら僕が見えると思うし、声をかけてくれるよね。)
うとうとと屋根を見つめて静かに目を閉じる。住人が自分を見つけて声をかけてくれたらいいなと願いながら。
さっきまで苦労して歩いてきた砂がまるで慰めるかのように柔らかく全身を包み込む。
(あぁ、ゆりかごの中にいるみたいだ…。ゆらゆらと揺れてる…。ふふ…お前がなんなのか分かんないけどありがとう。)
段々と体がぐるぐると回転していく。
(明日には絶対に誰かに会えるんだ。絶対に。会える。会える。会え…。あぇ…。)
そのまま意識を手放していく。
完全に睡眠に入ったときには地上にはなにもなかった。
地上から生える屋根も。 メグリも。
zzzzz...zzzz....zzずずzzzずずずず.....
あるのは建造物があったろう場所を中心には直径10m程のうずまき後があっただけであった。
ここまでは覚えてるんだよな。
そして、ここからは覚えてない。
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