昇天


「虚しいだけなので、さっさとやりますか。」


バックパックを地面に置き、その場で準備体操を始める。


「うんしょ、うんしょ」


「あ〜筋がのびるゔうぅん」


「ほっ!」 「はっ!」


「ふぅ、これでよしっと」


 およそ5分くらいの体操を終えた目繰は、ドンっと腕を組み、大の字に立つ。その状態のまま、日の出を一点に見つめてふと1年前のことを思い出す。


(そういえば、あんな組み合わせ初めて出たな。そもそも、もっと分かりやすいやつばっかりだったのに、なんであんな時間がかかるものを出してきたんだ?)


 ふとした疑問。


 この世界において、これほど重要な点であることに違いはない。


(どれくらい時が経ったかわからない。どれくらい世界を何周したかも分からない。いったい俺はいつまで生きればいいのか分からない。でも、世界が俺に成長を強いている?)


 僅かな希望。日の出がゆっくりと目繰を照らし出す。


 まさに、この世界が目繰を門出を祝うかのようであった。


「とりあえず、俺のイメージ不足ってのは分かった。後、イメージするのに時間がかかったのも良くない。これからはそういうのにも気をつけて、なんかにも行って、知識をつけてレベルアップだ!」


 新たな光を見出した、世界にただ1人だけの人間。


 久しぶりの高揚感が身体全身に伝わりブルブルと震える。


「おっと、勘違いすんなよ。これは戌じゃあねぇ」


 誰に言うわけでもなしに、目繰は自分の意味不明な力に断言する。


「これは、世界に対する求愛行動!本当お前ツンデレだな!もはやデレなんてないと思ってたから僅かなデレでもこんなに喜んじまう!くうぅ〜、落とし前つけろよな!」


 その場でばたばたと素早く足踏みしながら求愛する青年は、今世界に羽ばたこうとしている。


「さぁさぁ!今からお前のさらけ出した剥き出しの体を上から舐め回すように見てやんよ!そのあとにゆっくりと愛し会おうぜ!世界ちゃん!」


 広くはない面積の中、助走を確保して、クラウチングする。


「成る。翼が在れ。釣り合う翼よ、此処に在れ。」


 その言葉をきっかけにクラウチングから地面を踏み蹴り、日の出へとダイブする。


「俺はカ※レオ※!成り切る!染まる!空も飛べる!」


 世界一高い山頂からダイブした。この言葉だけで、この物語はここで終わりだろう。


 しかし、世界にただ1人の人間。目繰里無めぐりさとむに於いて、その終わりを拒絶する。



ブルブルブルブル



「羽ばたくよぉ〜ん世界ちゃん。今いくよ!」


 身体が震える。


「焦らしがたまんねぇな!おい!」


 ブルブルブルブルブ


「あ?」


 落ちる。


「おい」


 落ちる。


「おちっ……トゥベ!」


 合間に突き出た氷にぶつかり皮膚が裂ける。


「ぶばべ!」


 落ちる。ぶつかる。


「いたっ…ビッ」


 ブルブルブルブル不


「バやグ!」


「アベっ!…うぇ」


 ダイナミック下山。生まれたままの姿で、アダムさえ、そんなバカなマネはしなかったろう、唯一最高峰の山頂から下山に成功した青年。


 その青年は身体がボロボロに成りながらも、意識はかろうじて保っていた。


ブルブルブルブルブルブル


「愛が重てェ……体も重てェ…ほんとなんで生きてんだろ…オレ……。」


 瞬間、20メートルもあろう大きな翼が目繰の肩甲骨あたりから生えてくる。


「あっ…おい!おせぇ!おせぇ!今じゃねェ!うげぇぇぇええ!重いぃ!重いから!」


 しばらくそれに抗ってなんとか力を解除しようと試みようとするも中々解除がでぎず、ついには重さに耐えきれず白目を剥き出す裸体の青年。


(身体が戻ったらまず、図書館にいってしばらくのんびりしよ…)


 こんな状況にも関わらず、冷静に今後の予定を考える目繰だった。


 ついには、意識を失う。


 身体の修復を始める。







 世界はまだ、目繰を認めない。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る