天彦ーあまびこー



 全身アウトドアウェアに身を包み、ニット帽・サングラス・ネックゲーターで顔を覆っている青年が今世界最高峰と言われていた山の頂に達していた。


 彼は山頂に登ったにも関わらず、目の前の景色に目も暮れていない。さらには、もう慣れたと言わんばかりにその場に座り込み、座禅を組む。


「はぁあ、結局意味わからん組み合わせのせいで、今回の楽しみがなくなっちゃったな。」


 今、目の前に広がっている景色は一面、空。


ーこのバカでかい山を登るの。」


 目繰の今いる場所は、かつて1番高い山と言われたところ。


 見える景色が空、雲、山。そんな場所に来るまでにあった出来事を誰に言うわけでもなしに、ひとりでぶつぶつと愚痴をこぼす。


「目繰式登山用セットはいつものことながら役にたったけど、ジェット気流に巻き込まれて滑落したわ、クレヴァスに落ちてしばらく身動きが取れなくなるわ、アイスクライミングで登り切ったと思ったら雪崩が来てまた滑落したわでどんだけ死にそうになるんだよ。ーーーーうん、いつものことながら、生きてる不思議」


 目繰自身、なぜ生きていられるのか分かっていない。この狂った世界から逃れたい、その思いで自ら命を絶とうとして、色々な方法を試した。


 結果全て失敗し、じわじわと身体が癒えていく様は時が遡るように、、、


「ま、今回は最終的にずるして登ったけど、別にいいよねぇぇえええ!!」


 口の前で両手を輪っかにつくり、突然に向かって叫ぶ。


 雪山の山頂。


 目繰がいる目線全ては空である。それより下は山になるわけだが、当然上は、空。やまびこが返ってくるわけがない。


 目繰自身、それを分かっているのか、叫んだあとは、これからする行為の準備をいそいそと始める。


 そのため、やまびこが確かに返ってきていることに気づかない。





…いいよね〜〜〜



……ぃいよね〜〜



………ぃぃよね〜



……………ぃよね〜







 いいよ









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る