夢現時"邂"ーあうときゆめうつつー
遠く儚く懐かしく、夢現との狭間で揺れ動く一つの魂。
ゆらゆらと煙の如く揺れ動くそれは、ただ1人を認め、己のあらゆる不を託すために決意をもって、世界を漂い続ける。
「」
その動きに一切の機敏さはなく、一歩一歩を踏みしめるようにゆっくりと動いている。まるでこの世界を懐かしむように、或いは憎む相手をじっくりと毒するかのように。
「」
その見た目は、一度触れれば飲み込まれそうなほど中心が黒く、永遠に終わることはないだろう奈落が続いている様。
その中心の奈落から球体の外周にいくにつれ真っ赤に染まっていき、染色体ような形をした線状の何かが無数にうねっている。
「」
宙に浮かぶ彷徨者は、球体の周りからじわじわと溶けていくように空気に馴染んでいく。
奈落さえも溶け、薄く煙のように広がり形を変え、ゆっくりと時間をかけて人の形を象りはじめる。
「〜」
ついには、人の形を象ったそれは10代の少女だろうか。シルエットだけで判断できる範囲はそれと、奈落色の体と、真っ赤な髪、らしきもののみ。
彼女は、進んで行こうとした逆側、つまり後ろを振り返る。そこには、彼女が生じた同じ時間から、この世界を進み続ける雪に埋もれた青年がいた。
「♪」
ヒュルルンと音がなる。
風鈴のリンとした音、深い穴の中で反響し合い、高いのか低いのかどちらでもない心がなぶられるような音が混じっている。
まるで"生"と"不"がーーーーーーー
「♪」
ゆらゆらとゆっくり、それが青年の元に近づき、言葉ではない風切りのような音で話しかける。
『わたしはあつめることしかできない。』
音が鳴るように
『だから、、、』
鳴くように
泣くように。
返事はなかった。
聞こえるはずがない。本来であればこのような形で表にでることは不可能のはずだった。
『"あのとき"からわたしはずっとあなたとともにありつづけ、あなたはあなたの成すべきことを、わたしはわたしが為すべきことを成してきた。』
鳴く。
『こうしてはなれることになったのはなんのいんがか"ました"にまぜられたあのいまいましい"どう"がかんけいしているにちがいない。』
鳴く。
『もともとわたしたちだけでことをなそうとしていたのだから。いままでがうまくいきすぎていたのだから。』
静かに鳴く。
『くるいきったあわれでこっけいなせいねんが、かぞえるのもばかばかしいほどせかいをまわってくれたおかげであとすこしのところまできた。』
鳴く。
『やっと。やっとだ。ついに。ここまできた。あとすこし。あとすこしでこのせかいをっ…!』
哭く。
その瞬間、ボコッと彼女の左腕が膨れ上がり膨れて膨れて膨れてパンパンにまで膨れ上がって、
パンっ!
どさっ
赤毛の小さな女の子が生まれたままの姿で彼女と彼の間に転がっている。赤毛少女は彼女に酷似しており、また彼女も赤毛少女が成長した姿に酷似していた。
『わたしのはじまり。わたしのちいさなカケラ。あなたはまだかれのなかにいたいのね。そう。あなたからはじまったのだからあなたがきめればいい』
『でも』
『このせかいがおわればあなたもかれもきえていなくなる。それまでしずかにしていて。あいつにばれたらなにもかもおわるのだから。』
気を失って寝転んでいる少女はフワァと粉雪のように細かく分散し、赤白い光を放ちながら目繰に吸い込まれていく。
『あとはわたしたちがおわらせる。あなたたちはのこりのせいをたのしみなさい』
その言葉を合図に、彼女はその象りを無くし、再び球体に戻る。
そして、もうここにいる理由はなくなったと言わんばかりにその場から立ち去ろうとする。ゆらゆらとゆっくり、進み離れていく。
『もし、、、』
(((((やめろ。そんなことをする必要はない。確実にこれで終わらせる。)))))
『もしも、、、まんいちにわたしたちがこのせかいをおわりにできなければ、、、』
(((((考えるな。今それを考えた所ですでに最終局面に私たちは立っている。)))))
「あとは、、、お願い、、、」
なにかを振り絞った、消え入りそうな声が空気に響いて振動する。その声は距離的にも聞こえることはない。
もぞもぞ
『?!』
意識を振り返す。
聞こえるはずはないのだ。これはこの世界の在り方。システムともいえる。エラーなどありえない。例外は絶対にない。そういうものとして受け入れるしかない絶対的なルール。違反すればという概念自体、どの世界線、平行世界、並行世界、異界、魔界、多世界あいまって、この世界に上書きされた時点でありえないのだ。
ここは全てが辿り着く※転目の終着点。ここにいる時点で全ておわr.......
「まかせろ」
確かに聞いたその声。ずっと内側から聞いていたあの青年の声。聞き間違う筈がない。馴染んだあの声。
『』
「ぐかぁ〜」
(やはりそんなことはなかったか。さいごにまたよいここちをありがとう。おまえはほんとにわたしのいいばしょだった。)
再び意識を前に向け、ゆらゆらと進み出す。
この世界を終わらせる。それができるのは後にも先にも今ここにいる者たちしかいないだろう。
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