第34話「農業都市で暮らそうッ」

「いらはい、いらは~い! こちら、呪具ー。呪具だよ──獲れたて新鮮なアンデッド素材から作った呪具だよー」


 チュンチュン……! チチチ……!


 農業都市の朝は早い。

日が昇る前に動き出す人々と、それに合わせて開店する多数の露店の数々。


「さぁさ、よってらっしゃいみてらっしゃい! パンだよー。焼きたてほかほかのパンだよー」

「へいへい、そこの旦那ぁ! 今日は朝からおにぎりはどうだい? 新米、ほかほかのおにぎりだよー」


 立ち込める熱気は早朝とは思えぬほど。


「お。今日のパンは具材が変わってるな。ひとつくれ」「へい毎度!」

「んー! 米の匂いがいいねー。俺には二つくれ」「はーい、よろしゅうに!」

「──あ、ご一緒に呪符は、どっすかー?」「「……いらない」」


 農業都市の風物詩である朝市ならぬ───朝露店がそこかしこに軒を連ね、軽食を売りに出すと、とぶように売れていく。


「肉~。お肉の串焼きだよー。一日の始まりにお肉はいかがー」

「魚~、お魚だよー! 岩塩たっぷり、美味しい魚の串焼きやいかがー」

「呪符~。呪符だよ~。猛毒の呪符だよー。モンスターびっくり、麻痺の呪符もあるよ~」


 主食に。パンや米が売れれば、次に欲しくなるのがオカズ───それが人情ってものだ。


「旨いよ、安いよー‼」

「新鮮だよ~!」

「呪われてるよ~♪」


 しのぎを削る露天商たちはバチバチと火の粉を飛ばしながら客引き合戦。


「お、肉と魚かー。どっちも旨そうだな。両方くれ」「「毎度ぉ!」」

「俺も俺も! 全部くれッ」「「へい! よろしゅうに‼」」

「──あ、喉の渇きにゾンビタートルの汁はいかがっすかー? 元気もりもり、あっちもムキムキ!」「「……いらない」」


 農夫たちも、この時間を楽しみにしており、毎回違った味が楽しめる露店を冷かしながら畑に向かう。


 そして、ついついいらないものまで買ってしまうのだが、それもまた一興。


「うんうん、肉も柔らかいし、ジューシーだねぇ───ん?」

「げ、げへへへ、そこなお兄さん。お魚、お肉とくれば、これ──スケルトンから作ったお箸なんていかがです? これでお魚を食べれば、アッと驚き──硬い身もサクサクほぐれますよ」

「え、あ……いや、遠慮しとくよ」

 ドン引きのお兄さんはそそくさと撤収。


 ───ちッ……だめか。なら、あそこで黒パンを頬張っているオッサンをターゲットに!


「黒パンかー。んーちょっとボソボソしてるな、失敗したかも───」

「いっひひひ、そこなおじ様。かたーいパンを食べるときに苦労しませんか? そんな時はこれ! 獲れたてゴーストの灰から作った粉を一振りすると、なんということでしょう! パンがドロドロに!」

「うげ。……い、いらないかなー」


 クソっ……。


「ほほう。この町で初めてお米を食べましたが、なかなかどうして───うんうん」

「くーくくく、そこを行く、ふくよかな商人の旦那ぁ! たまにはこうした呪具なんかもいかがです? とってもインテリア向きの剣がありますよ! なんとこちら新作! ソーサラーが落とした魔剣をカスタムしたものでございまして、その名も、」


「ひぇ! なんですか、それ──気持ちわるッ」


 む……!

「まぁまぁ、そういわずに──あ、旦那? 旦那ぁぁ!」


 むむー。まだ説明の途中なのにぃ……!


 未練がましく、去っていく商人の背中に声をかけるゲイル・・・

 しかし、商人はといえばわき目も降らず一目散。……このセンスがわからないとは、残念だ。


「なにやってんの……」

「ん?」


 商人から視線を戻すと、ゲイルの露店に立ち寄る人物。

 よい香りのする女性のようで、とても豊かなオパイが魅力的な──。


 ───あ。


「……何・やっ・て・ん・の」

「モーラじゃん。これ買う? いいよーこの剣いいよー。新作‼ その名もザ・ディバイド~」


  「だから、何やってんのぉぉぉお‼」

   ゴッキィィイン‼


「あだぁ! な、なにすんだよ、モーラぁ‼」

「ザ・ディバイドぉぉおお♪ じゃないわよ、この馬鹿‼ バぁぁカ‼」


 二回も馬鹿っていう⁈ 


「つーか、いきなり殴んなよ! 俺なんかしたぁ⁈」


 ──理不尽にもほどがあるやん⁈


「『なんかしたぁ?』じゃないわよ! むしろ何してんのか聞いてんのよ‼」

「何って……。見りゃわかるだろ? 露店だよ、露店。モーラが欲しそうにするから特別価格で──」

「んなもん、見りゃわかるわよ‼ つーか、何が特別価格じゃぁぁぁ‼ いらんわ! そんなグロキモい剣‼」


「あ゛あ゛ん! 誰のセンスがゴミクソキモいじゃぁ‼」

 逆切れのゲイル……って、


「誰もそこまで言ってないし、センスの話してないわよッ‼…って、そーじゃなくてぇぇえ‼」


 あーもう‼ と地団太を踏みまくるモーラは、頭をバリバリとかきむしる。


「えー? じゃあ、なんなの? 急に殴るし、声張り上げるし────あ。……もしかして、アノ日・・・でご機嫌斜め?」


 ゴッチィィィイイン‼


「いっだっぁああ! なにぃ? なんで殴るのぉ⁈」

「デリカシー! デリカシぃぃぃいい‼───その言葉を頭に叩き込んであげてるのよ!」

 ふーふー。と肩で息をするモーラは頭から湯気を立ち昇らせんばかり。

「いや、だって……。いきなり来て、「きぇぇぇ!」とか声を張り上げられたらさー」

「誰も『きぇぇぇ』なんて言ってないわよ! バカ! アンタ、ホ~ント馬鹿‼」

「バカバカ言うなよ? なんなのよぉ、朝っぱらから気分悪いわー」


 ぶっすーと膨れるゲイルと怒り狂うモーラ。


 その様子に、農夫たちはソソクサと露店の前を通り過ぎ目を合わせない。

「気分悪いのはこっちと、街の皆に決まってるでしょ‼ もぉぉおおう!」

「なんなん??」

「『なんなん?』じゃないわよ! 朝っぱらからこんな気持ち悪いもん、ご飯の屋台の傍で売るとか、ちょっとは考えなさいよ」


 ……考えろったって?


「だって、商業ギルドで朝と夕方が一番売れるって言われて──」

「そ・れ・は、軽食屋台の話でしょーーーーが‼」

「えー……」

「えーじゃないわよ‼ 今のところで、反論する余地がどこにあるのよ?」


 いや、だって……。


「だってもそってもないわよ! 朝ごはん買いに来てる人を相手に呪符売ってどうすんのよ⁈ 馬鹿? アンタ馬鹿なの⁈」

「わ、わかってるよ。そんなバカバカいうなよー。だから、ゾンビ亀の汁とか、スケルトン製のお箸とか、パンをドロドロに溶かす──魔法の粉を」


 ズルゥ───!


「ばぁか‼」

 ばぁぁぁっぁぁか‼

「それを気持ち悪いというのよ‼」

「な‼ き、気持ち悪くないわぃ‼」


 スパァァッァアアン‼


「いっだぁぁあああ⁈」

「気・持・ち・悪・い・のよ‼ まず、それを分かれ───アンダスタンっ⁈ あとねぇ、需要と供給‼ この言葉しらないの⁈」


 ……需要と供給??


「えーっと、あれだろ? 欲しい人と欲しいものを売る人の関係──みたいな?」

「知ってるなら、それを頭に入れて考えなさいよ!……誰がパンをドロドロにして食べるのよ! あと、畑に行く人に猛毒の呪符売って何がしたいの⁈ 毒? 毒なの⁈ 農作物を猛毒にしろってか!?」

「あ、え。うー……。でも、ほら、この剣とかもあるし?」

「でも? あるしぃ?……じゃないわよ‼ もうううううううう‼」


 あああああ、もううううううう‼


「農業都市なら、農業都市にあったものを売りないさよ! もう‼」

 んー??

 農業都市にあったもの……。あったものねぇ───。


 屋台に並べた、呪符やら呪具を見て思案するゲイル。


 猛毒の呪符に麻痺のスクロール。

 スロウのダーツに、

 呪いの短剣ダガーに、呪われし丸盾バックラー───……。



 ───ぽんっ!



「…………『呪いの鉢巻』とか?」

 ズルぅ。

「なにを、『ポンッ(!)ひらめいた!』みたいな顔して、出した案がそれかい───もう、いいわよ! ちょっと来なさい」

「え? ちょ! 耳、いだだだだ!──あ!……ま、まだ露店中だぞ! 品物盗まれちゃう~」


 誰も盗まないわよ‼


「ちょ! いだいいだい‼ 耳がちぎれる───モーラ! モォォオオラァッァア」

「いいから来なさいッ! COME ONカモォォオオン‼」


 ずーるずる。


 …………。

 ……。


 支援術師に引っ張られる呪具師が一匹……──。



 ─────あとがき─────


久しぶりの投稿です!

コミカライズは絶賛、発売中ぅぅううう!

270万部突破したよッ!


  ※ ※ そして! 本題!! ※ ※


カクヨムコンのために再開!!

なので是非とも、下記の作品のほうに☆をつけて評価お願いします!!


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「『無限の付与術士』~追放されたバフ魔法使い、無限の魔力で世界最強に~」

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Sランクパーティから解雇された【呪具師】~『呪いのアイテム』しか作れませんが、その性能はアーティファクト級なり……! LA軍@呪具師(250万部)アニメ化決定 @laguun

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