その場の勢いのように見えてそうでもない、突然の気球デートに赴く男性ふたりのお話。
タグにもある通りボーイズラブです。といっても、露骨にいちゃコラするタイプの作品ではなく、しかし恋心を抱えて思い悩む感じの物語でもない。ただ「何か」によって結びつくふたりのお話で、そしてこの「何か」の描かれ方がとても絶妙でした。
彼らの間にあるそれが、いわゆる恋愛感情や思慕の類であると、そうはっきり読めてしまう表現を一切排している。排しているのに、でもどう解釈しても友情や信頼、またはそれらの高じたものではないと、そこだけは確信できる書かれ方。つまり一番美味しいところが読者の手に委ねられていて、だからこそそこを〝読む〟のが本当に楽しい。文字を知覚するという意味での「読む」ではなく、書かれているものから想像を広げる、という意味での、読む楽しみ。
とどのつまりは想像の余地、より身も蓋もなくいうなら、勝手に妄想する楽しみのような。この辺の加減が本当に絶妙で、そういう関係だと考えるには十分すぎる程度の証拠強度がありながら、しかし推定無罪の原則を突破するにはあと一手足りない、このギリギリところで弄ばれているような感覚が最高でした。ついつい深追いさせられちゃう感じ。
ふたりが特別な関係にある、というのはもう間違いないとして、でも他にも手段がある中で、わざわざこの状況を選んだ理由は? もしかして何か加虐趣味のようなものが、なんて表現だとさすがに下衆の勘繰りに近くなってくるものの、しかし普通の楽しいだけのデートではない、何か弱みや傷を晒すような状況だからこそ確かめられるもの。なにより、意図的にその状況へと自ら身を置くことの意味。例えば頼り頼られるのに何らかのエクスキューズが必要だったのだとして、しかし一見何に憚る必要もないようにも見えるこのふたりが、いまだそれを必要とする理由は? あるいは重ねた掌を受け入れるわりに、実はそこまで深い関係ではないのかもしれない——等々。
この辺り、実は全然書かれていなくて、でもただの出来事から無限に想像できてしまう。というか、想像させられてしまう。なんだか罠に嵌められたかのような気分さえしてくる、引っ張り込む力の強い作品でした。行動や結果から意味を考えさせられる、そのための取っ掛かりの作り方がうまくて上品な感じ。