Recipe.0

0.続かないプロローグ

 突然だけど、みなさんは料理をするだろうか。


 なんでもいい。ちょっとした炒め物とか、食材を切って、耐熱容器にぶち込んでレンジにかけるとか、そんなんでもいい。それだって立派な料理だ。


 もしあなたが、そんな「一般的には自炊といわないかもしれないけど……」というレベルでも、料理と呼ばれる類のことをするのならば、それは凄いことだ。俺が保証する。胸を張っていい。


 今、ここで、精いっぱい威張り知らかしたって誰も文句なんかいいっこない。


 何故かって?答えは簡単。


「んん~~ん…………あと十時間…………」


 君たちはその時点で、今、目の前でのたくっている南泰生物(28歳女性独身)よりは生物学的に優れているはずだからだ。


 ちょっとした炒め物だろうが、レンチンだろうが、なんだったらカップ焼きそばに食べるラー油でも加えてアレンジするだけでも勝利が確定すると言っていい。


 そう。これはそれだけ簡単な勝負なのだ。


 RPGで言えば序盤に出てくるチュートリアルがわりの雑魚的と同レベル。その程度の相手なのだ。


 なにせ彼女は「料理と呼ばれている行為は一切しない」からだ。


 本当かどうか疑うのであれば、今すぐキッチンを覗いてきていただきたい。


 ほとんど使った形跡の無いシンクとコンロ(最近は竜宮が使用することも多いので、少し使用感が出てきた)と、酒とコンビニで買ったつまみとアイスクリームの箱が九割方を占める冷蔵庫があるはずだ。


 ちなみに冷蔵庫に入っている残りの一割は、昨日竜宮が作った料理なのだが……今はいいだろう。


「ほら、起きてください。今何時だと思ってるんですか」


 そう言いつつ竜宮は、床でのたくっている生命体Aを蹴っ飛ばす。大分雑になったものだが、これでも最初は手加減があったのだ。


 毛布一つかけずに寝ていれば、風邪をひくからベッドで寝るように促したし、起こす時だって、ゆすって起こすか、目覚ましのアラームをいくつも鳴らすかというくらいで、決してこんな「道端に転がってる石ころが邪魔だった」みたいな蹴り方はしていなかったはずである。


 仕方ない。何から何まで全て眼下で惰眠をむさぼり続ける限界OLが悪いのだ。


 なんでも実家からはそろそろ孫の顔が見たいとせがまれているらしいが、これを引き取ってくれる稀有な趣味の人間が果たしてこの世の中にいるのだろうか。


 もしそんなことがあろうものなら、そいつの目的はほぼ100%が彼女の体だろう。

こんなんでも一応、出るところは出てて、引っ込むところは引っ込んでるからな。食生活滅茶苦茶だったのに、不思議なもんだ。


 と、まあ、そんな彼女を竜宮がこうやって起こして、世話(のようなこと)をしているのには理由がある。


 なんのことはない。


 竜宮自身が、こういう「生活能力のない、危なっかしい人」を放っておけない質なのだ。


 最初は幼馴染。


 次は妹。


 そして今度はお隣さんである。


 とにもかくにも竜宮の周りには生活能力を胎内に置いてきてしまった人が多い。


 竜宮は竜宮で、そういった相手を無視するスルースキルを胎内に忘れてきてしまった節がある。


 結果として、自堕落な生活を送る駄目人間と、それを世話する竜宮という構図が出来上がりやすいのだった。


 人はそんな姿を称して「竜宮ママ」という。やかましい。誰がママじゃこら。こちとら男だぞ。バブみが深いとかいうんじゃない。


 さて。


 今は過去と格闘している時間ではない。


 いくら休日とはいえ、このまま寝かせておいては、恐らく日が暮れるまで起きないことだろう。それを放っておくのは竜宮の主義に反する。


 そう、これは主義なのだ。


 だからきっと仕方ないのだ。


 飲み会から帰った夜に、明らかに面倒ごとなのにも関わらず、ついつい手を貸してしまったのも、きっと、仕方の無いことだったのだ。

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自炊男子大生と限界年上OL 蒼風 @soufu3414

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