うどしぶ

白川津 中々

 英国と異なり階級社会はとうに廃されているのだが武家出身の俺はどうしても古来よりの身分が言動に現れてしまうのだった。





「滝川さん。お昼どうなさいますか?」


「考え中です。其方そちは?」


 しまった。つい癖が出てしまった。


「そち?」


「あぁすみません。そちらは?」


「なんか他人行儀ですね……まぁいいですけど。私はこれから回転寿司へ行こうかと。よければご一緒にいかがです?」


「あぁ、いいですね寿司。ナマナレですか?」


「え?」


「あ、いや、すみません。ナマステ〜っと言いました」


「……カレー食べたいんですか?」


「いえ、そんなわけでは」


「ならいいんですけど……」


「いやぁ。最近、天竺感出していこうかと思いまして」


「自分探しの旅でもしたいんですか?」


「それもいいかもしれません」


 談笑の後、移動。昼休みの時間は少ない。早く行かねば。だが、突然忍び寄る係長である。


「あ、滝川君。ちょうどいい。今からレポートの見直し頼めるかな?」


「え、今川家? 間違えた。今からですか?」


「そうそう。今川今川。頼むよ」


 なんたる悲劇だろうか。寿司がご破算だ。


「お気の毒様。それじゃ、滝川さん。お先です」


「あいや待たれよ!」


「え?」


「今生の頼みお願い申す……どうか、どうか余のためにテイクアウトで寿司を……ナマナレをナマステ……」


「おあいにく様。ナマモノのテイクアウトはやってないのよ。それじゃ、ナマステ〜」


「そんな! 後生じゃ! どうか! どうか……」



 行ってしまった。腹の虫が鳴る。武士は食わねど高楊枝というが、それはあまりに時代錯誤ではあるまいか。これもやんごとなき身分に生まれた者の宿命か。なるほど。これがあれか。武士道と云ふは死ぬ事と見つけたりというやつか……


 死して尸、拾う者なし。

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