ー好機ー

教室に戻り、チャイムが鳴る直前に教室に戻ってきた朔は、チラリと蓮へ視線を向けすぐさま下を向き自席へと戻って言った。

顔はどことなく赤らんでるようなそれでいてなんとも言えない表情をしている。


(そりゃそうなるだろ・・・)


そんな朔の様子を自分の席から眺めながら小さくため息をついた。


(蓮くんが相手ねぇ・・・さて、どうしたものやら・・・)


座席でいえ場蓮は廊下側の一番前の席。

朔は、真ん中中央あたり。

俺は窓際の斜め後ろに座っている。

ちょうど斜めに並んでるような状態なので、俺の位置から朔と蓮の様子は見て取れる。


名前の順で座ってたのだが、試験の少し前に席替えがあった為、今は俺と朔は少し席が離れた状態なのだ。


今は英語の時間だが全く先生の声が耳に入ってこない。

朔も同様で、教科書とノートは開いてはいるがその手は止まったまま、時たま自分の頭をポリポリかいては両手で顔を覆ったりして、そして更に蓮の方に顔を向けまた下を向く。というルーティンを繰り返し行っている。

どうやら、本当に朔は蓮を意識してしまっているようだ。


そして、そこにつけ入るように今後は俺も朔に好意を伝えていかなければならないとなると、きっと朔の頭は爆発でもしてしまうだろう。


(まぁ、その責任は蓮だよな、俺じゃない。)


と自分に言い聞かせながら窓際の外に広がる晴天を見て物思いに伏せった。


初めて朔に出会ってからの事を考えていた。

こんな漫画みたいな話があるのかってくらい、朔は男子生徒に見えなかったよなぁとか。

体育祭では徒競走で1位を取ってはしゃいでいたよなぁとか。

運動神経がいいからクラス対抗リレーでは、アンカーを務め、3位の位置から見事に2人抜き去って1位を取り優勝に導いてくれたよなぁとか。

本当に、どうでもいい朔との思い出を思い返していた。

あの3年間の中のどこのシーンにも必ず俺がいる。

そこに居たのは蓮じゃない。

はしゃぐ朔と肩をくみ喜びを分かちあったのも、リレーで1位になった時も俺の背中に飛び乗ってクラスのみんなから賞賛の声を浴びていたのも、いつも朔の隣には俺が居たんだと。


俺は、ずっと傍で朔を見てきた、一緒の時間を過ごしてきた。

【友達】として、そうやってきたのだと思っていた。

俺だってモテなかった訳じゃない、告白されたことも数回あるが、その子の為に時間を使うくらいなら朔と遊んでいたいと思っていたから全て断っていた。

それに、女子と付き合うという楽しみ方が俺には理解できなかった。

他の友達の惚気話を聞いてても、映画に行くのも遊園地に行くのも、俺は相手は朔とだったら楽しめるなぁとしか考えてなかった。

クマのぬいぐるみ?そんな物より食べかけの給食のパンを落として落胆してる朔の方が可愛かった。

可愛いと噂される女子を見て、確かに可愛いとは思っていた。

だが、その子の為になにかしてあげたいとかそういった感情を持ち合わせていなかった。

朔の為ならなんだってしてやろうと思えるのに。


(これが、蓮の言ってた事の意味なんだろうな)


心の中で自分に問いかけつつ、答えを出していた。

問題はここから先の話なのだ。

既に蓮に1歩どころか2〜3歩遅れを取っている。

告白した上にキスまでするとは、呑気に寝てた自分をぶん殴ってやりたくなる。


多分、今朔の頭の中は蓮との事でいっぱいだろう。

ここで更に俺が何かするのは得策ではない。


(うーん、どうしたもんかねぇ・・・)


朔が頭をパンクさせずにどうにか俺の方を向いてもらわなきゃ困る。

今の状態では、明らかに分が悪すぎる。

かと言って、今までと同じ接し方では、多分俺らは【一生友達】だ。


(あれ?べつにそれでもいいんじゃね?)


と思った後に、蓮の言葉を思い出す。

そうだ、あいつは手に入れると言った。

となれば、当然俺と朔が今までのようにいられる訳が無いのだ。

必ず蓮は邪魔してくるし、朔の態度だって変わる可能性すらある。

そもそも、朔が蓮を嫌悪せず意識してる時点で朔にとっては恋愛対象が女性に限った話ではないという事を証拠付けている。


(まずは、朔にとって俺という存在の位置確認が最初だな・・・)


そうと決まれば話は早い。

今日はこの授業が終われば放課後だ。

今、蓮の事を意識してる朔は絶対蓮との接触は嫌がるはず・・・。


この好機逃す手はない。



キーンコーンカーンコーン


授業が終わりみんなバタバタと席を離れ帰り支度をしながら帰りのHRを迎える為担任を待っている。

蓮がこちらを見てないことを確認してからすかさず朔に近付き声をかけた。


「朔、帰りちょっと遊んでいかね?」

「っ!学か、テストで疲れたし息抜きも必要だよな。」

「だろ?いつものゲーセンで先に待っててくんね?」

「?一緒に行くんじゃないのか?」

「あぁ、ちょっと担任に呼ばれてるから先に行って待っててくれよ」

「待っててやってもいいぞ?」

「いや、ちょっと長引くかもしれないから。」

「そうか、わかった。それじゃあ、先に行って待ってるよ」

「悪いな、よろしく頼むよ!」


担任に呼ばれてるとは嘘だ。

俺らが2人で帰ろうとしたら蓮は邪魔してくるだろうし、そうされると朔が「俺、用事あるんだ!」なんて言って逃げ出しかねない。

かと言って、蓮にこちらの動きを悟られたくない。

みんなの中に紛れ廊下へ出るとちょうど担任がこちらへ向かってくるのが見えたのですかさず駆け寄り


「先生HR終わったらちょっと聞きたいことあるんですけどいいですか?」


と声をかけた。


「おう、いいぞー。」


すぐさま担任より先に教室に戻り自席に着く。


「今日のホームルームは特になんもなーし。みんな明日も元気で学校来いよー。あ、あと桜井は後で職員室来いよ〜」


これで下準備はバッチリだ、心の中で小さくガッツポーズをした。


朔も案の定、こちらを振り向きうなづいてくれてる。


「はい、じゃあさようならー」


帰り支度や整えた生徒たちが次々と教室から出ていく。

その中に朔の姿を見つけ見送った。

蓮は、出入口に近い分なかなかすぐには席を立てずみんなから遅れて帰り支度をしている。

俺も遅れを取らず職員室に向かうため席をたった。


「蓮、また明日な!」


俺の呼び掛けにびっくりしたのか少し目を見開きながら


「あぁ、明日な。」


と返事を返してくれた。

職員室へ向かうも担任に何が聞きたかったのか忘れたから思い出したら、また聞きに来るとだけ告げると、担任は苦笑いしていたがそれでいい。


そのまま俺は朔の待つゲームセンターへと急いだ。

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桜の季節の再会 十六夜皐月 @izayoi_satsuki

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