ー衝突ー
走り去る朔を見ながら俺は蓮に言葉をなげかけた。
「朔に何かした?」
「なんでそう思う?」
真っ直ぐ順位表に試験を向けたまま俺を見ようとしない蓮に視線を送りつつ続けた。
「俺だってそこまで馬鹿じゃない。朔が妙に上の空なのは気付いてるし、蓮に対してなにか思ってそうなのは感じてる」
そこまで話すとゆっくりと俺の方を向いた。
「うーん、これは僕と朔也の問題で学には関係ないんだよ」
そして更に蓮は饒舌に語った。
「もし、僕と朔也に何かあったとして、学は困ることがあるの?僕と朔也がどうにかなったとして学に関係あるの?学の方こそ何か勘違いしてるんじゃないの?」
開き直りにも似た蓮の発言に、少し苛立ちを覚えた。
「朔は俺にとっての【友達】だから何かしたなら許さないってだけだ。」
「学にとって、朔也は【友達】なんだよね?それなら、尚更関係ないと思うよ。僕らの友情は壊れてない。」
蓮は、妙に引っかかる言い方をしてくる。
要するに【友達】である俺には口出しする権利もないだろって事を言いたいのだろう。
そんな事重々承知している。
それでも朔が困ったような態度をしているのは見ていられないし、蓮と何かあった事は間違いないと思っている。
要するに、俺の気持ちに対して蓮は焚きつけようとしているんだ。
この渦巻く感情がなんなのか、自分でも理解出来ていない気持ちの部分を蓮は俺に解らせようとしているんだ。
無言でいる俺に、蓮はフーっと一息ついてスっと近づき耳元でこう囁いてきた。
「(朔也に告白したんだよ)」
「ッ?!」
カーッと頭に血が上るのを感じ蓮を睨みつけた。
「だから、なんで僕を睨むんだよ」
困ったような苦笑いをうかべた連がそこに居た。
確かにそうだ。
蓮と朔に何があろうと俺には関係の無いことなのだ。
それなのに、怒りにも似た感じを嫉妬だと自覚するまでそう時間はかからなかった。
「だから、僕言ったじゃない。遠慮しないよって。学は自覚してないだけだよ。」
苦笑いをうかべたまま蓮はそう続けた。
周りにはたくさんの生徒がいるのに騒音が一切聞こえなくなるくらい俺の思考は停止し無言になった。
(俺も朔が好きなのか・・・友達としてじゃなくて・・・)
蓮は相変わらず苦笑いをうかべたまま俺を見つめている。
「蓮は、いつからそう思ってた・・・」
「最初に僕と朔也が話しているのを見ていた視線」
「そんな事・・・」
「学の視線は嫉妬に溢れていたよ、「俺の朔に手を出すな」ってまるで獣みたいに僕を見つめていたよ」
「確かに見てはいたけど・・・」
「学に自覚が無い内にとも思ったんだけどフェアじゃないだろ?朔也にも選ぶ権利はあるし、君にも選ばれる権利はある」
「お前は・・そこまでしても朔が自分のものになると思ってるのか・・・?」
「勿論、僕と朔也の関係は合宿でもわかったと思うけど強固なものだから、あとは、朔也が僕を意識さえしてくれたらいいんだ、どうやら成功してるみたいだけど。」
それがトイレへと逃げ込んだ朔也の本当の理由なのだろう。
「ひとつ聞いていいか?」
「なんなりと。」
「俺も朔が欲しいって言ったらどうなる」
「友情は変わらないよ、僕は選ばれなくても朔也のそばに居たいだけ」
「俺はお前にはそばにいて欲しくはないけどな」
「それは僕も同じ気持ちだよ?でも朔也が悲しむ事はしたくないんだ」
「あー・・なるほどな・・・」
蓮は、朔也が幸せならそれでいいと思えるほどの気持ちを抱えてる。
俺はまだその域にまで達していない、というか今やっと自覚したくらいなんだから当たり前だ。
蓮に比べたら朔を思う気持ちなんて産まれたての赤ん坊みたいなもんだ。
「ありがとな」
「僕はお礼を言われるようなことをしたつもりは無い。余計なライバル増やしただけだからね」
そう言って苦笑いしてるくせになんだか少し嬉しそうな蓮。
「僕は、学のことも好きなんだよ。朔也とは違う意味で、【友達】として好きなんだ、だからずるいマネはしたくないんだ」
性格まで男前すぎて太刀打ちできない・・・
俺のどこに蓮に勝てる要素があるのか聞いてみたいくらいだ・・・。
「蓮、お前ってある意味不器用というか素直だな」
「あははっ、褒め言葉として受け取っておくよ」
屈託なく笑う蓮に釣られて俺まで笑ってしまった。
「今日からライバルってことだよな」
「うーん、まぁ学がそう思うならそうじゃないかな」
「もう隠し事はないよな?」
「あー・・・ごめん、キスはした。」
「はい?!」
「告白した時に、キスした。」
「お前・・・それは朔だってあーなるだろう・・・」
「そうでしょう?そこも可愛いんだ」
なんて性格してやがると思いつつ思わず俺も苦笑いしてしまった。
多分これが一条蓮ってやつなんだろう。
「別の意味でも尚更宜しくな」
そう言って手を差し出すと蓮は迷いなく俺の手を握り
「こちらこそ」
と返事を返してきた。
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