七章 幽霊病棟 ―26―

 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…っ―――


 恐怖に駆られたわたしはその場から逃げ出した。


 友人を押し倒し、出口を目指して一心不乱に美容内を駆ける。病み上がりの体が悲鳴をあげた。



 なんで?



 なんでわたしなの?



 わたしも、先輩みたいに死ぬの?



 自分の幻聴なのか、絶えず、歓喜の歌 が頭の中を流れている。



 大好きな曲を聴きながら殺されるなんて思ってもみなかった。



 ぐちゃぐちゃになった感情の涙が視界を悪くする。そのせいで植木鉢なのか人なのか、何かにぶつかり、体を床に強く叩きつけた。



 その瞬間、衝撃で脳に電流が走ったように記憶が繋がった。




―――あの屋敷で見た顔。



―――祖父ではない人物。



―――夢の中で画面に映っていた老人。



―――そして……“歓喜の歌”の合唱団。



 ああ…あの人は………



 ずしりと体が重くなる。



 時間切れ、みたいだ―――



 何かに押さえ込まれるように体が沈んでいく。




 死んだ………




 わたしは 死んだ。




 もう逃げる気力もない。



 そして わたしの逃亡は早々に終わりを告げた。

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駆除師 浅野とNo.9 水街ミト @aoguruma

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