七章 幽霊病棟 ―25―


 白衣の老人はあれやこれやと、防犯カメラの時刻を進めたり、戻したりを繰り返して、やっとの事で先輩の映り込んだ時刻に合わさる。



 [2054.8.14.10:49]



 そうだ。昼前に先輩はわたしの病室から出ていった。


 そこままカウンターへと向かい、何かの書類に書き込み始めた。


「このとき松本さんは、退院の手続きをしていたようです」

 医者が丁寧にも教えてくれた。


「もう少し、進めてみますね」


 つまみを回すと、きゅるきゅると映像が早送りになる。時刻が進んでいく。



 動きがあったのが、午前11時34分。



 先輩が廊下を歩いていたときだった。


 ホログラムのなかの先輩は電話が来たようでスマホを取り出した。


 その直後、不可解な動きを始めたのだ。



 先輩は一点だけを見つめて、何かに怯えるように後ずさる。


 そのまま何かに廊下の端まで追い詰められると、………ホログラムが固まった。


「あれ……おかしいな…」


「いや、待って下さい。これ止まってません」


 もう一度よくホログラムを見てみる。


 [2054.8.14.10:35]


 本当だ。さっきの時刻から少し時間が進んでいる。


 でもそれなら、何故先輩は動かないのだろう。



 微動だにせず、虚空を見つめ続けている。



 そして壁にのびる先輩の影が、消えた。




 ザァァァ――――



 途端にホログラムが真っ白に光りだした。


 いきなりのことで皆が反応できないでいると……白い砂嵐が“歓喜の歌”を奏で始める。



 それは少しずつ大きくなり――



 ぃゃ……



 いや だ………



 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…っ―――



「おい浅野!!」


 恐怖に駆られたわたしはその場から逃げ出した。

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