六章 病室とパフェ ―24―
「松本さんが………危篤だそうだ」
宮原が言葉を続けているが、何を言っているのか頭に入ってこない。
「今朝……今朝 一緒に話したのよ!?」
お互い、包帯ぐるぐる巻きで頭を痛めていたことを除けば、普通に会話をしていた。
しかし、宮原は何も答えない。
「何かの、間違いだ よ……」
シーツをきゅっと握りしめる。強くしすぎて指先が白くなった。
そしてある考えを思いつく。
「医者に会わせて」
「いや、だから………ちょっと 浅野」
わたしは友人の制止も聞かずに病室を飛び出した。
* * *
「どういうことなんですか」
カウンターを叩く音が廊下に響き、好奇の視線が浅野に集まる。
「いや……それが私たちにもよくわからないんだよ。彼が廊下で倒れていたのを見つけただけなんだ」
医者によると、目立った外傷はなかったらしい。心臓発作か何かだろうと言われた。
健康には疎い先輩だったが、風邪を引いて休むようなことは一度もなかった。
先輩が死ぬはずがない。
それだけは、何の根拠がなくても信じていた。
死ぬ はずが―――
私は頭の中がぐちゃぐちゃになりながらも脳を働かせる。
「そうだ、防犯カメラ! 防犯カメラはないんですか」
「おい、浅野……」
さすがに宮原も苦い顔をする。
「……無いことも、ないが」
隣の看護師と見合わせ、医者はため息をつく。
「ご友人なら仕方ないですね」
老眼鏡の医者は名簿帳を閉じて、防犯カメラのデータが残っている、カウンターに案内してくれた。
しわの刻まれた手が、おもむろにカウンターの装置に伸ばされる。
「ありがとうごさいますっ」
「すみません、浅野が……」
「心配なされるのも、無理はないでしょう」
そう言って、目を細める。いままでもこのように入院患者の身を案じる人たちを見てきたのだろう。とても柔らかな笑みを持った老人だった。
装置が音もなく起動する。
そして、わたしたちの目の前にホログラムが映し出された。
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