六章 病室とパフェ ―23―

 宴会会場と化したわたしのベッド周りには、病院内とは到底思えないものが散乱していた。


 ビールの空き缶に、みかんの皮、ケーキを包む美味しい透明なフィルム――。


 そしてサトさんは酔いつぶれて、その大口をあけて眠っている。


 酷い有様だった。


 看護師さんが来ていないのが、せめてもの救いだ。


 静まり返った病室にはいびきだけが響いている。



 と、静寂に水を打ったかのように、部屋の外が騒がしくなった。



 宮原とわたし、二人の視線がドアの向こうへと移る。


「ちょっと見てくる」


 何かをまとめていたメモ帳をぱたりと閉じ、宮原が席をたつ。


「待って、私も……」

「あー……。あさのちゃんはぁ……わたしとお酒ぇ……」


 半開きに目を開けてサトさんはわたしに肩を組んでくる。


「佐藤さん。よろしくお願いします」

「ちょっと……置いてく気?」

「病人は安静に」


 そう言うと、にこりとしてドアの向こうへと行ってしまう。


 宮原にも置いていかれてしまった。


 宮原といい、松本先輩といい、わたしを軽く見てるんじゃないだろうか。


「しょげなぃの……ほら、わたしがぎゅーぅってしたげる……」

「苦しい……サトさん、ギブっ。ギブだって――」



 * * *



 …………遅い。


 宮原が病室を出てからすでに20分ほど経っている。サトさんは再び眠りの国へと旅立っていた。


 騒ぎは聴こえなくなったものの、絶えず走るような足音が扉の奥から響いている。


 途中だった猫小説ももう読み終えてしまった。


 本格的に何もすることがなくなったところで、浅野に魔がさす。



 ちょっとくらい……いいよね。


 サトさんを起こさないように、こっそりとベッドを抜け出してスライドドアに忍び足で向かう。



 そろりと手を伸ばしたところで、スライドドアがひとりでに開いた。


 宮原だった。


 驚いたような顔をして、こちらをみている。


 とっさに抜け出したことを咎められると思って、浅野はきゅっと目を瞑った。


 しかし怒声は飛んで来ない。


 ゆっくりと瞼を開けると、やはり宮原がいるが心ここにあらずといった顔だった。


「どうしたの?」

「何でも…ない」


 嘘だ。声に覇気もなければ、幾分か先程より顔色も悪い。


「何でもないことないでしょ。………話して」



 きりっと睨むと、宮原は少しためらうように目を動かし、ようやく重い口を開いた。



「松本さんが………危篤だそうだ」

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