第10話 ロマン武器を求めて ~『イシャール堂』の暴走日記~
「あ、お嬢さん!」
その日エイミが『イシャール堂』を訪れると、イージアの青年が初めに気が付いてくれた。
「お、お嬢さん……」
「はい! お嬢さんに『イシャール堂』を紹介していただけて、すごくすごく感謝しているんです! ほら、この腕! 見てください!」
翳りなどみじんも感じられない、晴れやかな笑顔で駆け寄ってきた。ずいっとエイミに差し出された右腕は、ギプスの代わりに鈍色のメカで覆われている。
「この腕のおかげで、また鍛冶ができそうなんです! お嬢さんがセバスちゃんを紹介してくださったおかげです!」
「セ、セバスちゃん…… 紹介した覚えはないけれど……」
エイミが身に覚えのないことに戸惑っていると、ウィンっと『イシャール堂』の扉が開き、「こんにちわー」と少し間延びしたあいさつでセバスちゃんが入店してきた。
「あら、エイミ。ちょうどいいところに」
エイミを見つけたセバスちゃんは、すすすっと距離を詰めてくる。反射的にエイミは若干のけぞる。
「え、なんでセバスチャンが家に?」
「彼にKMS社の生体機械のプロトタイプテスターを紹介したんだけど、紹介するだけでは無責任でしょ。だから、様子を見に来たんだけど……」
そこまで言ってセバスちゃんは、両手を口に当てて「にしし」と笑った。
「『ロマン武器』なんていう、楽しそうなものの説明会をしてたから、混ぜてもらったの!」
「セバスちゃん参加の、ロマン武器説明会……」
エイミの背中を、すうっと冷たいものがつたった気がした。
「そう! いやぁ、すっごく話が盛り上がっちゃって! ここにいる4人で新しいメカと武器を開発したの! で、ついにこの間試作機の第一号が出来上がったってわけ!」
「試作機……」
エイミは、故意に自宅に長期間立ち寄らなかったことを後悔した。いったいいつから話が盛り上がっていたのかはわからないが、開発期間はたっぷりあった気がする……
「せっかくだから、機能テストをエイミにお願いしたいの!」
「まぁ、そうなるわよね……」
「さぁ、そうと決まればエルジオン・エアポートで機能テストよ! 準備はすぐに終わるから、エイミもすぐに来てね! あ、今回自信作だからアルドたちも呼んできて!」
そう言い置くと、セバスちゃんはそそくさと『イシャール堂』を去っていった。
「はぁ…… エアポートでセバスちゃんを待たせるのも危ないし、私もアルドたちを誘ってすぐい向かいましょう」
エイミが軽く肩を落として『イシャール堂』を出ると、「待ってください!」と言って、店員が追いかけてきた。
「あの、あまり大きな声では言えないのですが…… お嬢さん、できれば試作機を木っ端みじんに大破させていただけないでしょうか」
声を潜めて話す店員に、自然と返答するエイミの声も小さくなる。
「大破って。穏やかじゃないわね…… あなたも開発にかかわっていたのでしょう?」
「そうなんですが…… ノリノリで開発してしまった挙句、ブレーキ役もおらず…… ニルヴァのような小さい島程度なら、単騎で撃墜できるほどの性能を持たせてしまい」
「ニルヴァを撃墜……」
「ええ。なので、さすがにちょーっと、持て余しているといいますか…… 僕の中の小市民が『これ、EGPDに知られたら、厳重注意では済まされないくらいには、大事になる気がする……』とささやいていて」
「な、なんてものを作り出しているのよー!」
エイミは、声を潜めていたことなど忘れ空に向かって叫ぶと、アルドたちを呼ぶために走り去った。
◇◇◇◇◇
「待っていたわよ。エイミ」
「セバスちゃん。本当にやるのね。……試作機のテストということは、もし壊してしまっても恨みっこなしよ」
「いいわよ! やれるものならやってみなさい!」
エルジオンからカーゴを乗り継ぎ、エアポートの最端に集まったアルドたちに向かって、セバスちゃんは自信ありげに胸を張った。
ずばっと斜め上に向かって振り上げられたセバスちゃんの手の先に向かって、エアポートの下から、試作機が音もなく浮き上がる。
「え…… これは、未来でよく使う乗り物じゃないか?」
試作機を見たアルドから、そんな声が漏れる。
セバスちゃんのジャケットと同じ色の試作機は、大型のカーゴのような見た目をしていた。
「ふふ。これは第1形態『移動型』ね! カーゴそっくりの見た目に仕上げたから、どこにでも乗り込めるわ!」
「まって、どこにでも乗り込んで何をするつもり……」
「次に! 第2形態『調査型』よ!」
エイミの疑問をサラッと無視したセバスちゃんの声に応じで、ぷしゅーっとカーゴの入り口が開く。
すると、中から6体の小型ビットが飛び出し、エイミたちを遠巻きに囲んだ。
小型ビットに攻撃の意思はないのか、「スキャン開始…… 解析…… 解析中…… 完了」というと、カーゴの中に戻っていった。
「いま、あの小型ビットから干渉を受けたのだけれど、あれは……」
ヘレナの疑問に、セバスちゃんは両手で口元を隠して嬉しそうに笑った!
「ふふ! 今のであんたたちのスキルも特性も丸裸よ!」
「拙者たちのスキルが丸裸とは…… なんと、破廉恥な!」
「そんな冗談を言えるのも、今のうちよ。さぁ! 第3形態『防御型』! ここからがこの試作機ちゃんの本領発揮なんだから!」
セバスちゃんの嬉しそうな声とともに、エイミたちと試作機の戦いが開始された!
が、構えるアルドたちに対して試作機は動かない。
「えっと……」
「『防御型』だから、エイミたちから攻撃してー。一分間攻撃を受けないと、次の型に移ってしまうから!」
戸惑うエイミに向けて、いつの間にやら安全圏まで退避したセバスちゃんの声が飛ぶ。
「じゃ、じゃぁ気を取り直して…… 『ブライトヘヴン』 あ、あれ…… なんだか火属性の敵を殴ったかのような抵抗感?」
「火属性でござるか。なればここは拙者が……『円空自在流・蒼破』 む…… この岩のような硬さは、土属性ではござらんか?」
「ふふ。『防御型』では、さっきの小型ビットでスキャンした情報をもとに、攻撃する人を見て、防御に使う属性を組み替えるの! さて、次は第4形態『迎撃型』!」
攻撃の効きの悪さをいぶかしむエイミとサイラスに、セバスちゃんの楽しそうな声が届く。
「迎撃ってことは、これもこっちから攻撃すればいいんだよな…… 『エックス斬り・改』 ……って、うわぁ!」
攻撃したアルドに対して、試作機から水属性の魔法攻撃が飛ぶ。
「なんだか、試さなくても結果がわかる気もするけれど…… 『グランフュネラル』 ……くっ ……ああ、やっぱり風属性の物理攻撃ね」
「まだまだ行くわよー。えーっと、『支援型』は今回は飛ばしてっと ……最後は『攻撃型』!」
セバスちゃんの叫び声を合図に、エイミたちを魔法属性の全体攻撃が襲った。
「『攻撃型』は、今前衛で戦っている人を判断して、最大効率を出せる全体攻撃をするの! ほかには、『回復型』もあるけれど、今日のテストはこれだけでいいわ」
そう声を飛ばした後、小さな機械をいじりながらエイミたちに近づいてくるセバスちゃんであったが、半分ほど来たところで足を止めると、「あ、あれ……?」とつぶやく。
そして、ビューっと、先ほどのテストをしていた位置よりもさらに後方に走り去る。
「セ、セバスちゃん、もしかして……」
「ごめーん。エイミ! 試作機の制御、効かなくなっちゃったー。この際、大破させてもいいから、止めてー」
「やっぱり…… でも、あんなふざけた性能の試作機どうやって止めるのよ!」
「今の設定だと、『防御型』『迎撃型』『支援型』『攻撃型』『回復型』の順で切り替わるようになっていて、『支援型』と『攻撃型』、『回復型』は他の方よりは攻撃が通ると思うから……」
「というか、セバスちゃん。自爆機能はないの? この間、自爆もロマンって言ってたじゃない!」
「2番煎じは嫌いなのよ! 次は、『回復型』だから」
セバスちゃんの声とともに、試作機の傷がいえていく。先ほどエイミたちの付けた傷などなかったかのように。いや、それ以上に強固になって……
「試作機のHP増えてない!?」
「戦う程に強くなる! 限界突破もロマンでしょー!」
「ロ、ロマンなんか嫌いよー」
やけくそ気味に叫んだセバスちゃんに、エイミも負けじと叫ぶ。
◇◇◇◇◇
満身創痍になりながらもなんとか試作機を倒し切ったエイミたちは、『イシャール堂』で事の顛末を説明した。
ご自慢の試作機をスクラップにされたセバスちゃんは、壁際で落ち込んでいるが、今回は無視だ。
「おー。あれを鉄くずにしちまうとは、エイミ、また腕をあげたんじゃねぇか?」
エイミの話を聞き終わったザオルは、そういうと闊達に笑った。
「やっぱり、『武器』というからには、ヒトが使いこなせるものでなければ……」
イシャールの青年がそういうと、店員も深くうなづく。
「確かに、今回はやりすぎてしまいましたね」
「おう。この反省を生かして、次はもっといい武器に挑戦しようじゃねーか!」
楽しそうな鍛冶師3人組を見て、エイミは諦めたように肩を落とした。
ロマン武器を求めて ~イシャール堂の調査日記~ 秘澄 @Hisumi_
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
関連小説
お祭りがしたい!/秘澄
★5 二次創作:アナザーエデン … 完結済 11話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます