第5話

 返事をためらう。電話の向こうで下卑た舌打ち。聞き覚えのある女の子の声。

「先生、助けて」

 バイト先の塾に通っているエイコちゃん。中二の二学期頃から不登校気味の病弱な女の子。


「では、待っているよ」再び男の声がして通話が切れた。

「あの、訊いていいかしら。ノビノリさんには親戚の女の子なんていなかったわよね?」

 うろたえた様子のヒカリさん。人質に取られるような身内は僕には居ない。両親共に独りっ子で僕も一人息子。


「CIAか。いくら何でも卑怯すぎる。ヒカリさん、その銃を貸して貰えるかな」

「あなたには扱えない。それに銃刀不法所持の現行犯で通報されるわ。相手の思うつぼよ」

「ヒカリさんも僕もエイコちゃんの目前で殺される。それが彼等の復讐だとしたら」


「あのね、あたしの唾液を飲んだら24時間だけヴァンパイアになるの。その間、人間の生き血を飲みたくなる衝動に悩まされるけど」

 ヒカリさんは拳銃の銃口をこめかみに当て、引き金を引いた。破裂音と共に薬莢が飛び出し、弾丸は彼女の頭に吞み込まれ、口からペロッと吐き出された。

「鉛の弾程度では傷一つ負わない体になるの。投与すれば普通の人間に戻れるワクチンもあるわ」


「ヒカリさんの唾を、どうやって飲むんですか」大体想像はついた。恥ずかしさにうつむいてしまった。

「つまり、その」

 彼女もしばらくもじもじしていたが、拳銃を片手に僕に吸い付くようなキスをした。僕も彼女の唾液を飲んだが、彼女も僕の唾液を飲んだ。不死の感覚はすぐにやって来た。

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