空に恋焦がれる病弱な少年と、空を舞うことに恐れを覚え始めた少年の、交流と友情の物語。
異世界ファンタジーです。完全なハイファンタジーというよりは、現実の歴史がどこかで枝分かれしたかのような世界。現実のそれと共通の神話を持ちながら、異なる科学技術や物理法則によって発展していった、だいたい近世か近代くらいのどこかの国、という印象で読みました。
もっとも、この辺はそんなに重要ではないというか、作品の要素としてもそこまで前面に出ているわけではないのですけれど。でも個人的に好きです。機構・機械の存在するファンタジーというか、ファンタジー世界に適合的な機構や機械の存在のような。本作では個人用の飛行装置がそれにあたるのですけれど、こういうロマンあふれるガジェットの存在には、どうしてもワクワクしてしまうものがあります。
とはいえ、作品の主軸は設定面よりも物語の方で、まっすぐテーマ性の部分をぶつけてくる強さが印象的です。母と子の関係、というか、そこに否応なく生じてしまう執着のようなもの。たびたび引用される神話の登場人物になぞらえるかのように、重厚な物語が展開されていきます。
そこを踏まえて、というか、この内容であればこそ魅力的なのが、この文体。どこか詩歌や舞台劇の台詞を思わせるかのような、この独特の節回し。読み進めるごとに少しずつ、文章のテンポに絡めとられていく感覚が楽しい、この作品ならではの個性を感じさせてくれる作品でした。