第16話 お宝ゲットの方法

 ヒュンッと音を立てながら、椿姫の剣が完璧な起動を描きモンスターを切り裂く。

 見事な手さばきだった。


 だけれど、目の前にいるゼリー状の水色でぷよぷよしたモンスターは魔力が強いモンスター。

 切りつけただけでは、あっという間に再生してしまう。


 この世界がただのゲームだったころ、初心者キラーとして名をはせていた。

 別にこのモンスターは特別強い訳ではない。

 動きも遅いし攻撃力も弱い。



 初心者プレイヤーが自分の攻撃が成功したと気を抜いた瞬間に、切り裂かれた肉片から再生して、より多くのモンスターを生み出すことになってしまう。

 切り裂かれた肉片から再生されたモンスターは小さいので一体、一体の攻撃は大したことない。


 けれど、むやみやたらに剣を振り回しているとあっというまに、無数のモンスターに取り囲まれることになる。

 しかも、再生したあとしばらくすれば、モンスターの体は元通りの大きさにまで成長してしまう。


 この始まりの街付近では特別強くもないので、このモンスターを見かけたらとりあえず刺激せずに回避せよというのが、ここがゲーム時代の定石だった。


 しかも、このモンスター青色はこの場所以外に生息していない。

 そっくりなモンスターが色違いでこれから先の場所でも出現するが、青はここだけだ。

 しかも、そいつらは初心者を脱して、炎の魔法なんかを使えるやつがパーティーに一人でもいればあっというまに倒すことができるし、経験値も弱いのでみんな初心者をだっしてからもスルーする不遇モンスターだった。


 だけれど、このモンスター実は他のモンスターにはないアイテムをドロップすることがある。1000匹に一体の確率でサファイヤを落とすのだ。

 これから、先の街に行けば、そのサファイヤを高値で売ったり、武器や防具の強化なんかに使える。

 まあ、この世界がただのゲームだったころ、このモンスターは合計1500匹くらいしか倒されなかったのでたぶん知っている人はいない。


 椿姫は、他のデスゲーム参加者と比べて圧倒的にレベルが高いだけあって、素早さと筋力のパラメータもあがっているのか、軽々と剣を正しい起動で振り、モンスターはどんどん小さくなっていく。

 小さくなったモンスターはまた、椿姫が別なモンスターに剣を振るっている間に再生して成長する。

 気づくと辺り一面が真っ青で、まるで海のようになっていた。


 椿姫の動きがすこし鈍くなった気がした。

 そろそろ限界か?


 限界というのは椿姫の体力のことではない。

 この仮想空間の俺たちのいる場所の処理速度の話だ。

 俺たち――つまり、俺(頭部だけ)、椿姫、アオイの他に大量のモンスター。


 コンピューターはキャラクターだけでも恐ろしい数の処理をしなければいけなく当然負荷がかかる。動きが重くなってきたということは、処理にも限界が来ているということだ。


「そろそろだな。アオイ準備はできてるか?」


 すぐ側で俺の半歩後ろに隠れるように(実際は頭部だけの俺の後ろにいても隠れることなんてできないが)、立っていたアオイがコクンと頷いた。


 アオイは戦闘に不慣れだからしかたないだろう。

 不遇な職業テイマーを選んだせいで、剣士なんかのプレイヤーとは違い、戦闘はほとん経験していないらしい。


 無理もない。剣士などの職業であれば、もとからのパラメーターに筋力や素早さなど戦闘に有利なステータスが付加されるけれど、テイマーの場合はそこら辺は普通の人間だ。

 モンスターをわざわざ狩りにいくことは自らの死を意味してしまう。


 せいぜい、動物なんかと戦闘訓練ができていればまだマシな方だろう。

 テイマーというと、強いモンスターを従えて、守ってもらえるというイメージだろう。

 しかし、このゲーム。モンスターを手懐けるにHPをジャスト1まで持って行って手懐けるか、自分でモンスターの卵を孵化させるしか方法がない。


 しかし、始まりの街でうっている卵は食用か牧場用の普通の鶏の卵だし、弱い動物を相手にHP1だけ残すのも難しいし、無防備な状態のテイマーにそこまで倒されるモンスターではテイマーのことを守ることはできない。

 それ故、テイマーは不遇職としてゲーム時代もさけられていた。


「……大丈夫!」


 アオイは俺に返事をしたのか、自分で自分に言い聞かせているのか、そう小さくつぶやいたあとに右手を振り上げて、アオイの肩にとまっていたドラゴンに指示をだす。


「炎でやっつけちゃって、ピイちゃん2号!」


 そう、アオイが第一回中間発表で手に入れてみんなの前で付加させたドラゴンだ。

 まだ、赤ん坊でアオイのまわりを旋回するか肩の上にのって甘えているかというイメージの非常に可愛いマスコットキャラだ。


「キューッ!」


 俺はあのドラゴンが一度もピイと鳴いているところを聞いたことないので女の子の趣味はよく分からない。

 けれど、赤ちゃんドラゴンはやる気一杯だ。


 大きく息を吸ったと思った次の瞬間時間が止まった。


 空気震え、地面が揺れる。

 そして、気づくとドラゴンの口からは炎が吐き出され、一瞬で青いモンスターでできた海は炎の海へと変化した。

 何千、いや、何万ものモンスターが一瞬で燃え上がり、炎の海へと貸していった。


 やっぱり、ちょっとやり過ぎた。

 動きが炎に焼かれて苦しむモンスターたちの動きがカクカクしている。


 周囲のカクカクが収まり炎が消えたころ、色んなところからキラキラとしたエフェクトが見えるようになった。

 そう、この初心者キラーの不人気モンスターが落とすサファイヤがいくつもドロップされていたのだ。

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