第11話 レアアイテムを投入してデスゲームを混沌に導こう!

「はい」

「はーい」


 なんとも、この場に相応しくない暢気そうな二つの軽やかな返事が飛んできた。

 学校の出席をとっているわけじゃないのだから、そんなに元気よくお返事しなくても……そういえば、この声はなにか聞き覚えがあるような。


 そう思いながらも、今現在はデスゲームを進行中の身。余計なことを考えて、変な間をあけないように、俺はふわっとさっき出したレアアイテムたちをそっと手放す仕草をする。

 するとレアアイテムたちはふわりと空中を浮かびながら、それぞれ該当者のもとまで飛んでいく。


 そういう設定にしてあるのだ。そもそも、運営は先に賞品の授与先を分かっているので、間違いがないようにあらかじめ設定しておく。

 その広場にいる誰もが(俺も含めて)レアアイテムの行き先は誰かと必死に目で追っていた。

 そして、その先にいたのは見覚えのある少女がいた。


 あの青い髪の職業はテイマーの女の子の元には金の卵。

 そして、水晶瓶入りのポーションはあの赤い髪の女の子の元へ。

 そう、さっき俺がフレンド登録したあの二人だった。


 まずい、あの二人に俺は顔を見られている。


 俺は一瞬、パニックを起こして顔を隠しかけた。

 しかし、よくよく考えてみると、これはデスゲームようのピエロ伯爵のアバターだ。二人に中身が俺なんて分かるはずがないのだ。


 二人はケーキを食べたときと変わらない純真無垢な笑顔をみせた。

 まわりの人間もその可愛らしい笑顔をみて、思わずほうっとため息をついていた。


 良かったね。このアイテムがあれば少なくとも二人はこのデスゲームでかなり良いところまでいけるだろう。

 俺までほっこりしてしまう。

 システムの使い方が分かっていない二人がやっていけるか、ちょっと心配だったのだ。


 だけど、俺ははっと我に返ってセリフを続ける、


「さあ、賞品を授与した。あのアイテムはきっとこのデスゲームを生き抜くのに非常に役に立つであろう。もちろん、不公平だという意見もあるかもしれない。だけれど、参加者のみなさん。もしアイテムが欲しければ奪い取れ。運営はただ、最初のリリース先として特殊なパラメーターの二人を選んだというだけ。

 さあ、あのレアアイテムがほしければ、争え!」


 そう、俺はデスゲームの運営なのだ。

 俺の仕事はこのデスゲームをできるだけ盛り上げること。

 そのためには、あの二人がアイテムをゲットしたとしても、ちゃんと公平に定められた部分のルールについては説明しなければいけない。


 これで、デスゲームは盛り上がるはずだ。

 緊迫したピリピリとした空気が流れ、全ての人間を疑い続けるデスゲームか。

 はたまた、手当たり次第、すべての参加者がお互いに襲いあうデスゲームか。


 どちらに進んでも、大方のマニュアルはあるので安心だ。

 さて、どちらに転ぶか。

 レアアイテムをゲットした二人には悪いけれど、最初の標的になってもらおう。


 これはすごく映える。

 できることなら二人とも生き残ってほしい。


 俺は自分の生き残って欲しい気持ちが二人が映像映えするという理由だけじゃないことに必死で目をそらそうとする。

 さあ、本当のデスゲームの開始だ。

 せいぜい、参加者どうしでお互い人間の醜さを見せつけ合うがいい!


 そう思った次の瞬間のことだった。


「まってください!」

「はい、ちゅうもーく!」


 二人の少女が同時に声をあげた。

 二人の周りはすでに人がいない。そして一定距離をたもって、二人を取り囲むように他の参加者たちがいた。

 二人からアイテムを奪い取る気がない人間は巻き込まれたくないし、奪い取ろうという人間は適切な間合いをとる必要があるから。


 そんなさっきだった中で二人は暢気な顔で自己紹介をはじめたのだった。


「私はアオイ。職業はテイマーです」

「あたしは、椿姫。たぶん、最近結構レベルあげで有名になってるんじゃないかなって思うけど」


 っておい、そんな自己紹介なんかして余計に周りから印象づいちゃってるじゃん。そんな堂々と顔をあげてさあ。せめてフードを被るとかして顔やその目立つ色の髪を隠しておけば、もっと逃げやすくなるだろうに。

 ただ、自己紹介に添えられた二人の笑顔はものすごく可愛かった。



 そして、固まるデスゲームの他の参加者たち。


 椿姫は堂々としながらこう言い放ったのだ。


「譲る気はないけれど、このまま疑心暗鬼っていうのもなんなので、早速このアイテム使わせてもらいまーす!」

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