第4話 俺の作った剣と魔法の世界
ああ、帰ってきたんだな。
この世界に。
俺は胸一杯に空気を吸い込む。
まあ、今この瞬間、この世界に俺の体はこの頭部しかないわけだけれど。
それでも懐かしい緑の香りが心を和ませた。
どこからともなくヒュオーと風も吹いてくる。
そう俺が作ったこの始まりの街は別名風の街というんだっけ。
何時もじゃないけれど、ときどき親切な風が吹く。
風は人々に新たな植物をもたらす。
また悪戯な風はときに近くの旅人の地図や帽子を運んでこの街での新しい出会いをつくる。
魔法といえるほど強くはないけれど、確実に魔法が生きていて優しい心をもつ人々の街。それがこの始まりの街の設定だった。
俺はしばし“調査のため”街の様子を確認しようと歩き始めた(足はないので、頭部だけでふわりふわり進んでいるみたいにみえる)ところ、
「ふざけるなっ! だましやがって」
「あんなの信じる方が馬鹿なんだよ」
「なに、馬鹿といったのか。馬鹿といった方が馬鹿なんだよ」
「あ、いま。馬鹿って言ったからそっちが馬鹿ね」
「「ばか、バカ、馬鹿! ば~か!!」」
この口調は間違ってもこの街の
そう、間違いなくプレイヤー。つまり、デスゲームの参加者同士の罵倒だった。
ああ、せっかくサボれると思ったのに……。
だけれど、まだ序盤。まだプレイヤー同士の殺し合いは許されていない。
デスゲームというと問答無用で生き残ったモノ勝ちと思われてしまうが、実際はこれはゲームなのだ。ちゃんとルールを守れなければ勝ちは存在しない。
『相手から星を分けてもらって下さい。多い人が勝ちです。』
というゲームがあったからといって、相手から盗んだり、殺して奪っても勝ちではないのと一緒だ。プレイヤーは頭などを使って、適切なアクションを起こして『相手から』『分けてもら』わなければポイントにならないのだ。
ルール通りに運用されないゲームは視聴者から評判が悪い。
ましてや、序盤で
こんな美形キャラクターを早々にゲームオーバーにしてしまったら視聴者からの苦情も酷いだろう。
二人ともすごく可愛いのでデスゲームにわざわざ参加しなくても十分アイドルとしてやっていけそうなのに。
俺は必死にそろばんをはじき、二人の口の悪い美少女をなんとか通常のデスゲームに戻す方法を考える。
そしたら、ピコーンっ! と電球が浮かんだ。
「お嬢さんがた、もしよろしければケーキでも食べに行きません?」
俺はできるだけ言い声を作って丁寧に声をかけた……つもりだった。
「きゃあ!」
「やだ、生首が喋ってる!!! 私、お化けとか無理なの~」
二人の少女は抱き合って泣き出した。
よく見ると、ふたりともそっくりな服装だ。
ああ、百合というものは……よきかな。
俺の生首を前にして、二人の口の悪いデスゲーム参加者は、ただの可愛い女の子が抱き合っている百合展開へと進化したのであった。おめでとう!
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