第2話 製薬会社に買収されたゲーム開発会社の末路

 デスゲームというと、一昔前は大がかりな施設が必要だった。


 絶海の孤島とか、雪に閉ざされたロッジとか、からくり屋敷のような不気味な洋館とか。

 とにかく金がかかって、ついでに場合によっては私怨まで絡むという非常にめんどくさい、金持ちか人生をかけた人間しか開催できないものだった。


 それの金も時間も労力もかけたデスゲームを変えたのが高度に進化したVRMMOであった。


 これなら、通常の施設で参加者をカプセルに突っ込むだけでOK!

 なんてお手軽。

 ついでに、モニタリングして世界に配信までできちゃう。


 配信のおかげで、VRMMOの生還者の中にはアイドルやら歌手になるものまで現れるなど様々なビジネスが生まれた。

 ウチの会社なんて、ちゃっかり高価なポーションに自社の薬品のラベルを貼るなどちゃっかりCMにまでしているのだか恐ろしい。


 正直、倫理的にどうかしていると思う。


 参加者も参加者である。

 昔は、招待状がきたり、いつの間にか拉致されて強制参加なんていうのが普通だったのに、今や自ら申し込んでくるのだから。

 馬鹿じゃないか。


 いくらゲームであっても『デスゲーム』であることには変わりは無い。命がかかっているのだ。

 これはゲームだけど遊びじゃないんだ。

 俺にとってはゲームだけど仕事だけど、好きじゃない……だけど。


 そりゃあ、ウチの会社のデスゲームに使われる機器は優秀だ。

 新興の会社みたいに、家庭用のヘッドセットを使って、デスゲームに負けたら即、脳みその大事なところを焼き切って(たぶん大昔ロボトミー手術で切り取ってたあたり)廃人に。家族が一生その廃人の世話をしなければいけないなんてことはない。


 というか、ゲームにまけなくても長引いた場合は下の方は垂れ流しになってしまうなんてことまで聞く。普通に考えてあんな賞金じゃ割に合わない。


 一方の我が社は完全、招待制。


 一人一人、培養液に満たされた個別のカプセルに入っていただき、ゲーム中の体の鮮度は保証。どんなにゲームが長引いても、生還者は培養液に入る直前と変わらないどころか、怪我や疾患がある場合は治癒されている場合もあるというバックに製薬会社がついている会社ならでわのオマケ付きと来ている。


 賞金だって莫大だ。

 それに、個人的に最も大きなメリットだと思うのは敗者への優遇だ。

 もちろん、デスゲームだから死ぬ。

 だけれど、脳みそをどうにかして肉体だけを生かすのではなく、肉体はありがたくこちらが使わせていただく。

 移植できる臓器は素早く取り出され、残った部分も実験などに使われる。


 もちろん、家族には本物そっくりに作った死体が返される。どんなに苦痛と恐怖、そして後悔の中でデスゲームにおいて死んでいったとしても、眠っているかのような安らかな表情で。

 ついでに、移植や実験の貢献度に併せたお見舞い金も添えられる。


 ウチの会社は安心安全。家族にも優しいデスゲーム……そんな分けないだろっ!!!!!


 なんで、どうして、おかしいだろう。


 楽しみのため、金のために殺し合いをするなんて。


 俺の憧れていたはずのVRMMOの世界はどこにいったんだ?

 剣と魔法で世界を救ったり、お姫様を助けたり、仲間と旅をしたり。

 そんな世界を作るのが俺の夢だったのに。


 俺はどうして殺し合いの片棒を担いでいるのだろう。

 でも、俺にも事情があるんだ……そう、実をいうとデスゲームで命をかけているのはプレイヤーだけではない。

 この俺、デスゲームの運営自体も命をかけている……。


「木崎さん、時間です」


 部下の山下君が、俺の名前を呼ぶ。

 そろそろ、デスゲームの一試合目のパラメーターが公開される時間だ。


「分かった」


 あわてて、一歩踏み出すと、ポケットから銀のロケットが滑り落ちた。ロケットペンダントなんてイマドキはやらないけれど、妻の趣味だった。もちろん中には写真が入っている。


 世界で一番愛しい女性、そう妻と娘の写真だ。

 満面の笑みを浮かべる娘の姿がそこにあった。そういえば、運動会には行けなかったな。


「ごめんな。柚希」


 ……俺はそっと娘の名前を呼んだ。

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