1-8

一台の軽トラックが、工業用地を去っていく。


「あいつ、財布に5000円しか入ってなかったぞ」

 門司は溜息をついた。

「記憶が高く売れればいいけどなあ」

「買い手がつくのか」 

「知らないよ。傷害犯の記憶の需要なんか。好事家に売れるんじゃねえの」

 助手席の長谷川は、タオルでごしごしと顔を拭っている。

「他人の骨を折ったのは久しぶりだ」

「やりすぎなんだよ。両手いくことないだろう」

「故郷の教えだ。両手を折れば心も折れる」

「怖い地元だな」

「復讐されたらどうする」

「必要ないだろ。記憶も消したし。警察も呼んだし」

 門司はくくっ、と声を漏らした。

「そういやあれ、笑えたわ」

「何だ」

「お前が大北褒めちぎるくだり。武勇に優れ、とかなんとか」

「ああ」

「あれ面白かったな。どうせ口から出まかせだろ?」

「いや、真実だ」

「は?」

「私は嘘は言わん。あの男には勇者の素質があった」

 長谷川は前を見据えたまま、言った。


「きっと、どこかの世界を救うこともできただろうな」

「ふうん……だとしたら、世知辛いねえ」


 大量のパトカーが、サイレンを鳴らしながら通り過ぎて行った。

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パイプ屋のクソ詰まらない話 佐賀砂 有信 @DJnedoko

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