臍帯
Nue
プロローグ
この世界には壁がある。目に見える壁、見えない壁、守るための壁、分けるための壁。
壁の始まりは何だったんだろう。自分の土地であることを示すため、あるいは外側の脅威-例えば外敵や自然条件-などから私的領域を保護するために、人は壁を造った。
やがて人は、閉じ込めるための壁を造った。昔、あるアメリカの大統領がメキシコとの国境に壁を建てた。移民が流入しないように。もっと昔、ドイツの首都には大きな壁があった。西と東を行き来できないように。
そしてまた、壁ができた。見えない壁。大きな大きな、壁ができた。
「ハードルは高ければ高いほど潜りやすい」
いつか誰かが言った。
もしそれが壁だったら? 穴のないのっぺりとした壁。無表情を塗りたくった白い壁。潜るなんてもっての外、鼠のための穴もなければ、上端も下端も分からないくらい高い壁。
例えばそれに私が初めて向き合ったとして、私はそれを壁だとは思わないだろう。きっとこの世界はここで終わっている。この外側には何もないだろう、と。宇宙の膨張が追いついていない場所みたいに、無が転がってるんじゃないか。
わたしはそう考える。壊すことも乗り越えることも、誰からも学んでこなかったから。天井がガラスでできているなんて、知らなかった。
臍帯 Nue @nuit__9
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