第十三話「タイムリミット 1」

「共闘しながら競争するアクションゲームにしようと思うんだ」


 休み明けの月曜日、真宵くんが言った。

 追い出し部屋、私の席に身を乗り出して目を輝かせている。


 共闘は文字通り、仲間と共に敵と戦うこと。

 協力しながら競争……?

 ふと小学生たちが遊んでいたFPSを思い出す。


「田寄さんのおうちで見た、チーム仲間と協力して相手チームと戦う感じ?」

「ええっとね……。超強力な敵がいて、それをプレイヤー同士が協力して倒すんだよ。だけどあらゆる行動に点数がついてて、一番貢献したプレイヤーが優勝。そして最強のプレイヤーを目指すんだ。基本的にソロプレイで、戦闘ごとにマッチング」


「ま、真宵くん。ちょっと待って! 専門用語が多すぎて、よくわかんないよぉ~」

「気ままで身勝手なプレイングをしてるだけなのに、自然と協力しあえるゲーム体験にしたいんだ! これは面白くなるぞぉ~」


 ああもう! 私の声が全然聞こえてないみたい!

 迷ってばかりと思えば、こうと決めたら勢いが止まらない。

 ほんと、彼は入社した頃から変わってない。小さな男の子みたいに興奮気味に話す真宵くんを見てると、なんだか微笑ましくなった。



 真宵くんの説明によると、ゲームの中心的なアイデアはこんな感じらしい。


1:プレイヤーは「ヒーロー」になり、

  人々を守って「強大な敵」を倒す3Dアクションゲーム。


2:「ヒーロー」は「敵討伐の各種行動」や「人々の救助」によって

  貢献度に応じた得点をもらえる。

  攻撃以外にもあらゆる行動に得点が与えられる。


3:プレイヤーの目的は「最強のヒーロー」を目指すこと。

  最強のヒーローは素晴らしい報酬と名誉を手にできる。


4:戦闘終了時の累計得点が多い順に、いい報酬がある。

  得点が低い人にも十分な報酬がある。


5:「ヒーローの強さ」はプレイヤースキルよりも

  装備アイテムに重きを置き、遊びのハードルを下げる。


6:味方の『何らかの行動』を利用すると、非常に強い攻撃になる。

  これによってプレイヤー同士が連携できたり、

  ライバルプレイヤーの行動を踏み台にすることができる。



「う~ん。まだイメージがちゃんとできないんだけど、最強を決めるならどうして対戦ゲームにしないの?」

「まあ確かに、対戦ゲームにしちゃうのが分かりやすいよね。でも友達同士で競い合うのはギスギスするし、嫌な気持ちになることもあるでしょ? だから『共通の強い敵に一緒に立ち向かう』っていう感じでワンクッションおいてあげるんだ。もし点数で負けても『手伝ってもらえたから倒せた』って思えるからね。だけど確実に順位はつける」


 そっか……。

 確かに男の子たちはゲームに負けるだけで取っ組み合いのケンカをすることもあるって聞く。

 ちゃんと順位がつきつつ爽やかに終わることができれば、それは素敵なのかもしれない。

 なんとなく『共闘しながら競争する』の意図が分かった気がした。


「ところで、この『ヒーロー』と『強大な敵』って、そのままアメコミっぽくすればいいのかな?」


「ああ、いや。ひとまず余計なイメージがつかないように書いてるだけなんだ。実際には魅力的な世界観やモチーフを加えたいんだけど、そここそ彩ちゃんのイメージ力が欲しいんだ」

「むむぅ。責任重大だねー」


「もちろんアイデア出しは一緒にやろうね! ブレストして沢山キーワードを出して、ピンとくるものを見つけよう」


 ブレストとは『ブレインストーミング』の略称。

 みんなでアイデアを出し合って、相互に影響しあうことでより良いアイデアを探す方法のことだ。


 世界観やモチーフかぁ……。

 やっぱり男の子たちがメインターゲットだから、カッコよく激しく、ダークな感じがいいかもしれない。



 イメージを膨らませながら、私の視線は資料の『6番』の項目に留まる。


「ところで『6番』の『何らかの行動』ってどういうイメージなの?」

「あぁ……。うん、実はノーアイデアなんだよ……」

「ノーアイデア!?」

「そういうことができるとイイな……って思っただけで」


 そして真宵くんはため息をつく。


「これこそプランナーとしての頑張りどころなんだけど……。正直なところ、ここまでまとめただけでも僕にとって奇跡みたいなもんなんだよ……。もう、全然なにも浮かばない! 彩ちゃんどうしよう……」

「ふぇぇ……。でも私もゲームのシステムとかに詳しいわけじゃないし、何も浮かばないよぉ」



 その時、田寄さんがガラガラとカートを押してやってきた。

 カートの上には大きなダンボールがうずたかく積みあがっている。


「彩ちゃん。今日の単純労働のノルマが来ちゃったよ~。取引先に配る粗品の梱包だって~」


 ダンボールの中にはうちの会社のロゴとマスコットキャラがプリントされたタオルが無数に入っていた。


「ふぇっ! 何千枚あるんですか~!?」

「今週中はず~っとこの梱包作業みたいよ。彩ちゃん、作業時間がヤバいんじゃな~い?」

「そっか……。どうしよう」

「ノープランだったわけね」


 これはマズい。マズすぎる……。

 あと一週間しかない上に、本格的な企画作りはようやくこれから始められるのだ。

 いくら見張りの目がないって言っても、これでは仕事のしようがない。

 隣の真宵くんを見ると、彼も顔を青くしていた。


 すると田寄さんが私の背中をバンと叩いた。


「よっしゃ、任せな! 彩ちゃんの分は追い出し部屋のみんなで分担するからさ。しかも今週分は全部! だから頑張りなさいな」

「わ、悪いですよ」

「ふぅむ。……じゃあさ、ひと段落してからでいいから、みんながリクエストする絵をそれぞれに描いてあげてよ。彩ちゃんの絵がもらえるんなら、みんな喜んで手伝うと思うけどな」


 すると周り中から一斉に「おおおーーっ!」と歓声が上がる。

 みなさん、私が単純作業の合間に絵を描いてた時に興味津々で見ててくれたのだ。

 真宵くんも「さすがは神絵師……。あっという間にファンが増えてるなぁ」としみじみ言う。


 ああ……もう……。

 嬉しいやら恥ずかしいやら……。大変だよぉ。


「じゃあ……お言葉に甘えていいですか?」


 私が応えると、再び歓声が上がるのだった。

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