第2話 急募、アルバイト。
持論がある。
女は金が好きなんじゃない。女は金がかかるのだ。
まず化粧品。これが一番金がかかる。一〇〇均でいいやと腹をくくる生き方もある。それに最近の一〇〇均は質がいい。けれど私は、一〇〇円で自分を売る気にはなれない。だからそれなりの化粧品を買う。
次に服。レディースはメンズのそれに比べれば安い。けれどその分、サイクルも早い。今年着ていた服は来年には着れなくなる。それは、流行的な意味でもそうだし、物理的な……要するに、強度というか、服の造りの問題……意味でもそうである。
爪。男の子には分からないかもしれないが、女という生き物は些細なことで気持ちが浮いたり沈んだりする。できれば、気持ちは上を向いていた方がいい。指を綺麗に保つことは、「指を見ただけで気持ちが揚がる」状況を作れることに繋がる。ここに投資する女子は多い。
下着。私は胸が大きい……自慢じゃないが……。よって、特殊な下着が必要になる。これが、高い。そのくせかわいくない。いや、かわいくて大きな下着もあるにはあるが、高い。私も二着しか持っていない。
生理用品。地味だが痛い。毎月かかるわけではないが、年間八四〇〇円かかるというデータもある。同じ生殖細胞の排出でも男子のそれでは一年間で一万弱も金がかかることはないだろう。ティッシュっていくらくらいだっけ?
そういうわけで、私は師走、金がなくなった。
忘年会、忘年会、忘年会。サークルの忘年会もあれば、ゼミの忘年会もあり、バイト先の忘年会もある。
つまり飲み食い。これも金がかかる。特に女子のそれは。だって、確かに一杯一九〇円のビールは魅力的だけど、どうせ飲むなら一杯六〇〇円のカクテルの方がよくない? この感覚私だけ?
私は地元のオムライス屋さんでアルバイトをしていた。ホールスタッフ。料理の運搬と会計、そしてお客さんに愛想を振りまくこと。このバイト先に決めた理由は制服がかわいいから。赤のチェックのシャツに真っ赤なエプロン。下はジーンズでいい。ラフだけどフリフリ。このギャップがいいのだ。
時給は神奈川県の最低賃金である一〇一二円。週三日。五時間労働。さすがに毎月一五〇〇〇円程度じゃ生きていけないので他にもアルバイトをしている。イベントの会場スタッフ、ティッシュ配り、まぁ、要するに、簡易バイトだ。こっちの収入が月六〇〇〇円から一〇〇〇〇円弱。
後、私はお小遣いをもらっている。毎月三〇〇〇〇円。本当は、高校の卒業と同時にお小遣い制からも卒業して自活するつもりだったのだが、父が、「親に甘えられる内はしっかり甘えておけ。それが子供の義務だ」と言ってきたのでお小遣い制のままである。特に不満はない。
毎月五五〇〇〇円くらいのお金を使って生きていけ、というのが私の大学生活な訳だが、忘年会シーズンに就活が重なったのが痛かった。メイクを変えなきゃいけないし、となると化粧道具をある程度揃えなきゃいけないし、髪も切って染めないといけない。そして忘年会。酒と食事。消えていくお金。
そういう訳で私はアルバイトを就活と卒業論文の模索に並行して探していた。
今日日、女子大生が稼ごうと思えば手段はいくらでもある。知り合いにはキャバクラで稼いでいる人もいる。もっとも、その子は家の事情で学費を親に払ってもらえず、自分で払わなきゃいけないからそうしているのであって、私とは置かれている環境が違う。
私はもっと安全なバイトがいい。オムライス屋は地元だから安心できたが、簡易バイトの方は時々際どい服を着せられたりと危ないことがあった。だから、大学の就職センターが紹介しているアルバイトを探すことにした。掲示板を見て、考える。
「サンリオピューロランドで働きませんか? スタッフ募集」
「飲食店アルバイト。ホールスタッフ募集」
「古本屋。やることはレジで座っているだけ。時給七〇〇円」
テーマパークで働けるほどの体力はない。
飲食バイトはもうやっているからいいや。
時給七〇〇円って、最低賃金下回っているのはアウトでしょ。
そんなことを思いながら掲示板を眺めていた、その時だった。
その広告は真っ直ぐ私の目に飛び込んできた。
「時給一二〇〇〇円。実質六時間労働。心理学的研究の実験台になってください」
これだ。私はそう思った。
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