第9話 思い出の指切り
ある日の事だった。
「魅香ーー、入るぞ」
瀏士が私の部屋を訪れた。
「うん…」
「どうしたんだ?最近、元気ないじゃん!?」
「えっ?そうかな?」
「そういう話を久竜から聞いた」
「えっ!?」
「家のお前は普通だから全然気付かなかったけど…いや…もしかすると私が鈍感なだけかも?」
「えっ?鈍感って…」
私はクスクス笑う。
「笑った!いや…久竜が心配してたから、ちょっと声をかけてみた。で?何か悩み?恋愛?勉強?」
「…夢見てから…初恋の男の子に逢いたいって思いが常に見え隠れしてる」
「そっか…」
「あっ…ごめん…瀏士…。こんな話つまんないよね?大丈夫だから。さあ、部屋に戻って」
私は瀏士を追い出すようにする。
「あっ!おいっ!待て!魅香」
「まだ何かあるの?」
「あるから」
「何?」
「お前の初恋っていつ?」
「えっ!?初恋!?それは……前に話した」
「そうか」
「この17年間生きて…初恋の人が、ずーっと心に居たなんて……本当…馬鹿だよね…ていうか私の話は良くない?」
「その気持ち分からなくねーよ」
「えっ?」
「俺もさ…初恋、保育園の時だったんだ」
「へぇー、そうなんだ」
「引っ越すの分かって、みんなと別れんのマジで辛くて挨拶なしで別れ告げて…」
「えっ?挨拶しなかったの?」
「そっ!」
「そうなんだ…じゃあ、好きな子と別れ告げないまま別れちゃったんだ…もし、初恋の子と相思相愛だったら…その子ショックだっただろうなぁ~。私が、その子だったら…きっとショック…」
スッと私の片手を優しく掴む瀏士。
ドキン
私の胸が小さく跳ねる。
そして自分の小指を瀏士は絡めた。
ドキン
「瀏士?」
「だけど…好きな子には…また逢えたらと思ってさ…引っ越す前に指切りしたんだ…」
ドキン
「えっ!?指…切り…?」
「また逢えた時、変わらない自分達で逢おうね」
ドキン
私の胸は大きく跳ねた。
まるで
あの頃の恋の扉を開けて飛び出すように……
そして、一筋の涙がこぼれ落ちた。
「尾田切 魅香という名前の、今、俺の目の前にいる君こそが俺の初恋の相手」
「…瀏士…君…」
指切りした手を離し、グイッと引き寄せ私を抱きしめた。
ドキン
「お前が、あの時の女の子だったなんて正直信じられなくて…久竜が教えてくれた。…だけど…久竜から聞く前に、お前の夢が俺の思い出を鮮明にさせられた…」
「…瀏士…」
「セピア色だった思い出が…一気に変わって…でも……俺…その前に、お前の事が好きだった……」
抱きしめた体を離す。
「もう思い出なんかじゃなくて……成長した俺達でスタートしよう!魅香……。俺と付き合って欲しい。ゆっくりで良いから」
「瀏士…うん……」
初恋 ~ 変わらないままで ~ ハル @haru4649
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