第8話 初恋相手

「瀏士君」



久竜だ。



「あっ!こっち、こっち。悪いな久竜、呼び出して」


「ううん、全然良いけど、どうしたの?」



久竜は、腰をおろす。



「お前にさ、ちょっと聞きたい事があるんだ」

「聞きたい事?うん、何?」

「魅香の事だけど」

「魅香ちゃん?」


「ああ。お前、俺と同じ保育園だったじゃん」

「うん」

「俺の事、1年間でも何か情報知らね?」


「情報?」

「正直、俺の事だけじゃなくてアイツの事も」

「二人の事?どういう内容を聞きたいの?関係?」


「まあ……関係?いや…関係で良いのか?いや…実はさ、つい最近、アイツが幼い頃の夢見たらしくて」


「夢?」


「そう。俺、話を聞いてあげたんだ。そうしたら同じ事あったなぁ~って思って……もしかして……もしかするとだけど…」


「うん」


「俺の初恋相手って…アイツ…?」


「えっ?」


「俺もスッゲー好きな女の子いてさ、引っ越す事になって……。お前がアイツの事好きなの知ってアイツにお前に告白されたって事聞いて勧めたんだけど……」


「そうか。だけど、俺フラれたから。瀏士君も魅香ちゃんも後を追うように引っ越したよ」


「えっ!?」


「そして、二人は初恋相手同士で結構みんな知ってたよ。でも…二人は離れ離れになっちゃって…織姫と彦星みたいって」


「瀏士君は魅香ちゃんが好きなのに、その気持ちを隠すように誰にでも対等に接してて、魅香ちゃんは、そんな瀏士君が好きだった。まあ、周囲にはバレてたんだけど」


「そうか…」


「でもさ、また、再会した訳じゃん。世の中、狭いって事なのか…もしくは神様がくれた奇跡なのか…」


「久竜…」


「今度は必ずゲットしなよ!瀏士君。彼女の恋の扉開けて」


「俺が?」


「きっと魅香ちゃんは、そんな彼…つまり君の事が忘れられないまま今を至っていると思う。告白される事はあっても人を好きになる事が出来ないと言うより…好きになれないんだよ。きっと…。ずーっと心に思い出と一緒にしまっているから」



「思い出から抜け出させて、現実に戻してやれって?」


「そういう事。第一、瀏士君、好きなんでしょう?魅香ちゃんの事」


「えっ?」


「彼女の存在は何処か似てた。違う?でも…もう似てるじゃなくて、正真正銘、魅香ちゃんは、あの魅香ちゃんだから。何も躊躇わないでぶつかりなよ!瀏士君」





ある日の事。



「久竜君」

「何?」

「私……久竜君の事……保育園の男の子じゃないかって思ったんだ」

「保育園の男の子?」


「うん…。私……保育園の時、好きな男の子がいて」

「うん」

「その子、引っ越しちゃって…」

「うん」

「今、何処にいるかも分からなくて……」


「…魅香ちゃん…逢いたいの?」

「えっ?」

「その子に」

「……それは……ただ…最近夢見て、逢いたいって思うのは…あるかもしれない…」


「…魅香ちゃん…」

「…ごめん…久竜君、私の事……」



スッと片頬に優しく触れる久竜君。



トクン

胸の奥が小さく跳ねた。



「大丈夫。魅香ちゃん、思い出と一緒に恋の扉も閉めてるから辛いんだよ…。今の魅香ちゃん……辛そう」


「……久竜君…」


「魅香ちゃん…初恋の男の子が、ずーーっと忘れられなくて…恋をする事を抑えてたんだよ。もし、初恋の相手が心残りじゃなかったら魅香ちゃんは、たくさん恋をして、もっともっと良い女の子になっていたのかもしれないよ」



「…久竜…君…」


「きっと逢えるよ。…ううん、もう出逢っているかもしれない。気付かないうちに」


「そうだとしたら…いつ逢えるの…?」

「魅香ちゃん…」

「ごめん…未来は誰にも分からないか…」




グイッと抱き寄せた。



トクン

胸の奥が小さく跳ねる。




「大丈夫。いつでも逢えるように神様がきちんと用意してくれてるよ。魅香ちゃんの幸せが待ってるから。だけど…俺は、その子じゃない。初恋の男の子の名前も違うんじゃない?」



「えっ?…それは……」


「だったら尚更、俺じゃないよ」



抱き寄せた体を離すと、おでこにキスされた。



ドキン……

突然のキスに胸が小さく跳ねた。



「それじゃ、またね」

「うん……」



私達は別れる。




「……常に身近で…いつも一緒にいる彼、丈田 瀏士君こそが……君の本当の探し人だよ……魅香ちゃん…」










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