水の温度
雨世界
1 君がわたしにくれたもの
水の温度
登場人物
糸川白魚 小学校六年生の女の子 十二歳
浅瀬小石 小学校六年生の男の子 十二歳
プロローグ
君がわたしにくれたもの
本編
君に会いたかったんだ。
小さなころ、私はとても幸せだった。(自由だった。今のように不自由ではなかった)
水の中を泳ぐことが大好きだった、糸川白魚が水が怖くなって泳げなくなったのは、いつも上手に泳ぐことができていた近所の大きな川の中で、一度、溺れてしまったことが原因だった。
それ以来、白魚は水の中を泳ぐことができなくなった。
湖南小学校。激しい雨の日。
その日は朝からずっと大雨が降っていた。どれくらいの大雨かというと、小学校から下校する時間が少し遅れるくらいの大雨だった。(大泣きする子供みたいだと思った)
窓の外では、その向こう側にある風景が見えないくらいに強く雨が打ち付けていた。(それはまるで、駄々をこねる子供のようだった)
その雨の中を散歩した白魚は風邪を引いて学校をお休みした。どうして強い大雨の中を散歩したいと思ったのかは自分でもよくわからなかったのだけど、そうしたくってたまらなかった。
熱は高熱で病院に行ってお医者さんからもらった薬を飲んでも、全然下がらなかった。
白魚は高熱の中で、このまま私死んじゃうのかな? とそんなことを思ったりした。
……白魚が目をさますと横に浅瀬小石くんがいた。
小石くんはずっと白魚の手を握ってくれていたようだった。
「勘違いするなよ。僕が勝手に握ったんじゃない。お前が握って欲しいって僕に頼んだんだよ。熱で覚えてないかもしれないけどさ」と、ちょっとだけ照れながらそう言った。
「風邪うつっちゃうよ」
「そのまま死んじゃうかもしれないよ」
そんなことを赤い顔をしている白魚はいった。
「大丈夫だよ。それに、もし、そうなったとしてもその代わりお前の風邪が治るなら、別にいいよ」と小石くんはそう言った。
「君に死んでほしくない」
と白魚はいった。
(こんなに素直に自分の気持ちが小石くんに言えるのが不思議だった。それは、きっと風邪をひいて死にかけているからだと白魚は思った。これは私の『遺言』のようなものなのだと思った)
「なら、頑張って生きるよ」とにっこりと笑って小石くんはいった。
そんな小石くんの笑顔を見て白魚はなんだかすごく嬉しくなってにっこりと笑った。
「お見舞いに来てくれてありがとう。小石くん」と白魚はいった。
それから小石くんは白魚になにかをいってくれたみたいだったけど、その声はあっという間に穴の中に落ちていくみたいに、眠りに落ちていった白魚にはよく聞き取ることができなかった。
目が覚めると世界は真っ暗だった。
小石くんの姿ももちろん、いつの間にかその場所からなくなっていた。
白魚を自分の小石くんがずっと握っていてくれた手をのひらを見つめてから、しばらくの間、本当に今まで壱きていて一番幸せな気持ちに包まれていたのだけど、そのあとになって、冷静に今日のことを思い出した白魚ははずかしさで死にたい気持ちになった。
風邪が治った白魚は学校で小石くんに会うと、「あの日のことはみんな身は絶対に秘密だからね」と(まだ風邪をひいているような)真っ赤な顔をして小石くんにそう言った。
すると小石くんはいじわるそうな顔をして「さあ、それはどうかな?」とにっこりと笑って白魚にいった。
そんな小石くんの言葉を聞いて怒った白魚は、自分から逃げていく小石くんのことを全速力で追いかけた。
そうやって大地の上を走りながら白魚は、生きていてよかった、と思った。
エピローグ
英雄(ヒーロー)はどこにいる?
水の温度 終わり
水の温度 雨世界 @amesekai
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます