最終話:導かれ、導いていく
―1―
「ダメだ、ダメだダメだダメだ!!」
一発の死の種という銃弾によって生命が天へと向かいかけている肉体へ叫んだ。銃弾を放った者へ怒りをぶつけるための怒号。
しかし、灯夜の着ているスーツはエネルギーを切らしていた。エネルギーが切れればスーツによる人工筋肉から力は出ず、エナジーショットもブレードも出力出来ずにいた。
自分が無力で馬鹿ということを思い知ってしらされる。今のこの状況で自分は何も出来ない。そして自分がやってしまった殺人に対して背負いきれない責任。
一気にのしかかって来ても今はそれを気にしている余裕がなかった。いち早く風沙を助けたい気持ちが灯夜を壊すことから守っていてくれている。考えるのは後でいい。とにかく助けないと。
「クソ、なんで!……クソッ!」
何も出来ないことを頭で理解していた。しかし納得しているわけではない。目の前の歩いてくる、身体が文字通り壊れた人間が再生し一歩一歩歩み寄る恐怖に未だ立ち上がれずにいる
無意味な怯えの中、ひとつの肉体のように見えるなにかが目の前に迫っていた。
「ク……ソが……ざ……けた真似……し……やがって……殺すぞ……!」
普通なら肉片が辺りに散っていた筈の加賀魅の肉体が文字通りズタボロとなり、腕は千切れかけ眼球が一つしか見えぬ容姿で一歩ずつながら灯夜と風沙のもとへ歩いてきている。
声と気配によって気づいた灯夜。恐怖と無力感、そして状況が意味不明の為に吐き気がこみ上げてきた。
加賀魅のもげかけていた腕が接着し始め、折れたもう片方の腕は逆再生するかのように元の形に戻っていった。肌の再生は今の歩行と比例しているかのような遅さと確実性。
「殺してやる。まて、今のこの状況でどうしろっていうんだ。考えろ!このままじゃ二人共殺される!」
灯夜に向けられた再生されたばかりの腕と拳銃。
銃声。しかし加賀魅は射撃していない。むしろ射撃を受けた。拳銃を持った腕と胴に。今の加賀魅の状態では衝撃と痛みに耐えることが出来ず倒れた。
「大丈夫か!こちらストラックチームアルファ。『親子』を確保!それと敵を確認し排除した」
遅れてやってきた援軍。それが得体の知れない化物を無力化してくれた。それにこの人数なら風沙を抱えて外へ運んでいける。
「あんた達!親父を一緒に持ち上げてくれ!助けたいんだ!」
灯夜はそれの要請前に加賀魅の状況を確認、アルファの隊員は要請を受けた後に確認。どっちの目にも加賀魅が立つ様子は見られなかった。
「わかった!よし持ち上げるぞ。1、2、3!」
息は初対面ながらピッタリだった。救いたいという目的が合致しているからこそのチームワークだ。
「待ってくれ、アイツにトドメを刺さないと。なぁ銃をくれ」
提案したのは灯夜だ。恨みと恐怖から生まれた攻撃の意思を加賀魅にぶつけなければ済まなかった。
「誰かもわからない部外者に銃を渡す訳にはいかない。俺が目標にトドメを刺す」
ヒーローになるためのすーつとアーマーを付けては、親子だとさっきは言われたのが今では部外者。我慢できない言われようだったが今の最優先事項は風沙の救助ということを忘れてはならなかった。
「フー……わかりました。お願いします」
灯夜は恐怖と憤怒で埋まっていた冷静さを掘り起こした。逃げるという選択を選ぶには十分な冷静さだ。
―2―
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ここは死んだふりをしておこう。脳天を撃たれただけだ。リアクションしなきゃいいだけ。
今、武装した敵5人を相手にしてもこの状態じゃあ流石に敵わない。それに痛いしな。
しかし、今回はこっぴどくやられてしまったな。風沙はおそらく死ぬだろうからスーツを入手出来ない。メンバーもおおかた死んでしまった。するとこれは一旦仕切り直しってところだな。
クソっ、アイツはなんだったんだ。親父だのなんだの言ってたってことはそういう事なんだろうけど、スーツを着れる人間はブリッツマンただ一人じゃなかったのかよ。
絶対仇討ちにくるな。忘れられないだろう。
……だめだ。これ以上思考を維持できん。回復時は身体の機能や思考が低下するから嫌なんだよ。今は火傷や四肢の一部がもげるとで済んだが、もしバラバラになったらどうなるかわかったモンじゃない。
もう死ねないってのは気が楽でいいが、死ぬほど痛いのは嫌なんだよ。この能力を授かった時の痛み以上の痛みはまだないけど、もしその痛み以上を味わうんであれば死にたいな。そっちのがマシだ。心も身体も、痛いのはもう十分なのに。
銃音が響き、俺の頭に衝撃が渡った。歯を食いしばったが咽頭から高音が漏れた。死にそう。死なないけど。
大丈夫かこれ?確かこいつらと対峙した時に頭を撃たれた事はないから俺の能力についてはまだ全容は明らかになってないはず。というか、こんなに近くに来たこと自体初めてだな。
痛みを誤魔化す為の速い呼吸と叫び声がおそらくこのホールに響き渡ってるはず。状況を判断する余裕がない。
「こいつ、まだ生きているのか?ならもういっぺん」
おいやめろもう撃つなそれ以上は俺が
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―3―
「色々あったな」
やれやれだよ。ヒーローになれと言われて説得され、そこから変な専門用語を言われてややこしくなったり研究所が襲われたんで親父の作ったスーツを使ってテロリストと戦ったり。それで、結果親父が死んだ。やっとわかり合えたはずなのに
灯夜からは笑い声が不意に漏れてしまった。事の可笑しさ、自分の無力感、敵の強さと恐ろしさ。全てが常識から外れていた。
研究所から脱出して風沙を担架に運んでからの記憶がなく、意識が途絶えて気づけば現場の救急用の急ごしらえのマットで目覚めていた。灯夜が気を失っている最中に風沙の息が絶えたということが灯夜へ追い打ちを突いた。
灯夜にとってこれがあまりにも受け入れ難い事実だった。作られた存在で父が自らのエゴのために『息子に似せた自分』の中身へ息子の記憶を埋め込んだ身勝手な男といえど、親父と一度でも思っていたら喪失感は計り知れない。
守るべき存在は守れず、討つべき存在は勝手に死んだ。あの中でしかもあそこまで銃弾を受ければ生きてるはずもない。可笑しい事実だ。
仇を勝手に殺されたことには腹を立てていない。寧ろ殺してくれてありがたいくらいだった。仇をとることは過ぎた今となってはもうどうでも良かった。
そういや俺は失っただけじゃない。奪ってしまった。自分が行ってしまった殺害を思い出す。自分がやった気がしなかったことは言い訳にしたくはなかったが、結局は自分が手を下した事実に目を向けなければならない。
「もし、俺に力があればこの結果はおそらく避けられただろうな。でも、あの状況じゃしかたないだろ」
目を必死に背けようとした。
この状況をどうするべきはわかっている。強くなること。それは理解していた。強くなり自分を制御し、守れる力を持つ。
だが、灯夜は自信を失っていた。スーツを着て強くなれた自分でも敵わない敵がいる事実へ立ち向かうことは無茶なのだ。
「……俺には無理だ。終わらせよう」
「そういう訳にはいかない」
座り俯きながら負の感情を抱いている灯夜の背後に聞いた覚えがある声が響いた。
「輝馬さんか……なぁ、聞きたいんですけどこの部隊をここに向かわせるのにどれくらい掛かった?」
「あぁ、ざっと1時間と……34分か。陽動に引っかかってしまって」
振り向き拳を握りしめ輝馬を乱暴に押し倒す灯夜。
「何が陽動だ殺すぞ!あんたらがトロいから皆死んだんだぞ!研究所の人や親父が!もっとなんとか出来ただろ!?」
「すまない。これでも俺達はベストを尽くしたんだ。君も同じだと思うけど」
「ベスト、ベストか!やったさ!でもどうにも出来なかった!これ以上どうすれば良かったんだ?あぁ!?教えてくれよ!」
輝馬はため息をついた。呆れのため息ではない。自分のストレスを誤魔化す為のだ。
「人間、ベストを尽くしても全てを成せないってのは出来ないとはわかってると思ったが、なにもわかっちゃいないな、あんた」
ベストを尽くした、やれることはやれたはず、それでもどうにも出来ない事実を何度も受け入れようとしたが受け入れられな
い。灯夜の何十何百倍も考えたことがある輝馬。人にとって、ベストを尽くそうと全部が手に入らないことは普遍だと思っていたがそんな当たり前を知らない灯夜へ失望が現れた。
「わからないし、わかりたくもない。受け入れたくもない。これから先もね。あーっクソっ、苦しい!」
自分の頭を守っていたヘルメットを取り目の前の事実を投げるようにヘルメットを捨てた灯夜。
「辛いのはお互い様なんですよね。なら、俺がやめることもわかってください」
受け入れた全てを捨てた男が輝馬の前に立っていた。
「わかってるよ。お前の小ささも全部な」
―4―
普段なら昼食が胃袋で消化されているであろう昼下がり。しかし、なにも食べ物が喉に通らなかった。通らせても戻すだけだろう。3日前のショックがまだ抜けていないから。
部屋を整理していた男が立っていた。部屋のだいたいは業者によって整理され、どこかに送られることはたしかだ。その何処かは灯夜は把握していなかった。売られるかもしれないし、自分のものになるのかもしれない。それは正直どうでもよかったが。
「亡くなった人の部屋って、なにも書かれていない紙のようだ」
死人を出汁にしたポエムと言われたら反論は出来ない。それは自覚していた灯夜。
部屋を去る前にバッグに入れたラップトップの中に入っているデータを確認しろという旨のメールが灯夜の携帯に届いた。数週間前に押し倒した風沙からだ。葬式で会釈して以来会っていなかった。
「「データを確認しろ」、か。なんのだろって……わかりやすいな」
ラップトップを起動した後デスクトップに表示される壁紙とアイコンの一覧をパッと見た後に『灯夜へ』と題名されたフォルダが確認出来た。中身はビデオレターだ。
中身は単純なメッセージだ。
お前には可能性が満ち溢れている。その可能性を使って人を救うことも。でもならない自由があるが後悔しない選択をしろ
「何が選択だよ。何が後悔さ。これが父親ごっこの末路かよ」
灯夜は選択をしていた。戦うことを。そして後悔をした。失い、奪ってしまったことを。そして学んだ。なにもしないほうがいいと。自分に出来ることは何もない。だからこれ以上は無駄。
「俺に出来ることって……なんだろうね」
ラップトップを鞄へしまい、部屋を出る灯夜。何かを感じとり、振り返りこう言った。
「……責めないって言ったはずだよな?責められてる気分だ」
―5―
「それで、引き止めなかったの?」
「えぇ、なにが悪いんですか?やる気の無い奴は戦力になりませんよ?」
寒くも暖かくもないちょうどいい外界の大気の外にある朝日が冷たそうな見た目の部屋を暖めている。
レザーチェアに座り大きいデスクに肘を乗せている熟年の女性のため息が部屋に広がった。
「貴方ね、あの男は重要なのよ。殺すわけにも放置するわけにもいかないのよ」
同じく座っているが応接用の椅子と机を使い茶を飲みながら自分のペースで報告を行っている輝馬。
「ん……たしかに重要な戦力になる可能性もありましたけどあんな被害者ぶったやつどうしろってんです」
「違うわよ。井崎灯夜の出生を知っていれば意味はわかるでしょ。井崎博士のガーディアン計画で生まれた唯一の成功体なのよ」
輝馬は自身が持ってきた書類の中から守護者計画に関する紙の束を選択し、眺めた。
「あんな悔い改めたいエゴのついでに生まれた計画なんて……躍起になる気持ちはわかりますけど、人間なんですよ。選ぶ権利は彼にあるでしょ」
一通りある部分を軽く読み、書類は置く。
「伯母さん、俺だって彼を引き戻したかったですよ。ですが、彼にその気がなければ彼は俺達の力になれないですし、俺達は彼の力になれませんよ」
「そうね。その気にさせなきゃね。ヒーローにさせなければ。ヒーローは人を救うのが使命なら……」
不穏をすぐさま察した輝馬。
「待って、ダメだ。無関係の人を巻き込むのは」
「巻き込みはするけど死にはしないわ。彼が救うもの」
頭を抱える輝馬。
「この人は毎度こうだよ……」
―6―
スーツケースが灯夜に引っぱられ、移動の為の力が加えられている。考え事をしながら空港に向かうバスへ灯夜は一人歩いていた。
もう金輪際、失うことも奪うことも受け入れることが必要な事態は極力さけたいしそんな人生も冗談じゃない。しかしそれを受け入れている人達はどれほど強いのか測りしれず一種の畏怖をあらゆる人間にたいして持っている。
だからこそ風沙から託された希望というそんな壮大な話には到底ついていけない。
なんでただ生きていくのにこんなにも重たくないとダメなんだ
灯夜は人を助けたいという気持ちは常識的人間なりにはある自信があった。だからこそ、常識的範疇から外れるヒーローになれと言われたときは憧れよりも戸惑いが大きかった。どんな人間でも驚くとしても自分はそんな大きな存在になれない。
今や彫られた木の板が元に戻ろうとしても彫られる以前に戻らないように研究所での事件が深く遺った。
爆発音。高さが8階分あるマンションからだ。もちろん、灯夜含めてその周辺に居る者達はその爆発音が鼓膜に響き、爆発の元を探した。
―7―
「まったくあの人は、何を考えてんだ!マンションの空き部屋を爆破させて火事を起こす。それも灯夜の通行ルートのすぐ近くにだって?しかもなんで俺はそんなのに付き合うのさ!なんで今やってるんだから!」
当たり散らすように見えるが実のところ死人が出ないように計算しながら灯油をばら撒き、爆発しマンションから火がひろがるよう自家製の爆弾も設置した。計算通りなら、爆発はこの部屋で収まり、火事が起きるはず。
続けてマンションのあらゆる通路へ石油を撒き、爆破させる予定の部屋の周りには放火犯よろしく派手に石油をバラまいた。住民が気づくのは時間の問題だが、逃げるかはわからない。物事がこっちの都合良く動くよう、爆発後は自動ドアが作動しないように仕組んだ。
準備は整っている。格好も帽子とサングラスで正体がバレないようにした。これが怪しいのは自覚しつつもこれしか手段が見当たらなかった。
「頼むぜ、井崎灯夜。これで人を救ってくれなきゃ俺が罪の意識に苛まれるんだ。それだけじゃない。死人が出るんだぞ。無実の人が」
―8―
「あの人達も死ぬのかな。誰か救いに行かないのか」
呟いた灯夜。あまりにも無力な自分を自覚していても悔しさは無い。それは既に実感した。それにこの火事は自分とは無関係だ。だが、埋め込まれた記憶以外で生まれて初めて持つよくわからない感情が頭の中で渦巻いていた。助けを求める人がトリガーとなりさらに身体がザワついていく。
「誰か助けて!あそこにおばあちゃんが居るの!」
「消防車は呼んだのか!?誰か呼んだのかよ?」
「ブリッツマンどこ行ってんだ!?」
声があのマンションからも灯夜の周りからも聴こえてきた。それが彼にはうっとおしかった。研究所での事件を思い出すかのようで。
「誰かが行かねぇと誰かが死んだり誰かの大切な存在が奪われたりしまうぞ。裏切り者もこんな所にくるわけねぇ」
忍び寄られた後ろには聞き覚えのある声。これは輝馬の声だ。しかし火事に対して動揺すらしてない落ち着いた声だったのになにか裏があると察した。
「消防隊がくるでしょ」
「そうであって欲しいな。でも消防隊が事故にあったり違う現場でいっぱいいっぱいだったら?」
灯夜は背中にスーツケースの感触を感じた。自分のものではなく、変わった形のケースだ。
「ここから三軒行ったところの不動産屋にはなぜか誰も居ない。そのスーツケースにあるスーツやアーマーがありゃあ、耐火には十分だろう」
輝馬は手に持っていたスーツケースの感触が気づいたら無くなっていたことに安心した。同時に灯夜も既に居なくなってたからだ。おそらく不動産屋を封鎖したと言ったあたりから居なくなっていたと判断し、輝馬は安堵のため息をついた。
「ハァ、ハァ……!クソッ!やるに決まってるだろ……!!やらなきゃいけないんだ!!!」
―9―
着替えた直後に不動産屋から飛び出し、爆発したマンションに駆けつけたリヒトワンド。アーマーを付けたにも関わらず動きやすさは研究所の時と比べしっかりフィットしている。
石の塊が腕や脚に付いているような大きさで動きやすいのは身体が軽く動けるようにスーツからの人工的な筋力が働いており、これでどんな重いものでも運べる。
「イケる!これなら!」
自動ドアのガラスを突き破った。直後、エントランスからも発生している火に襲われるリヒトワンド。しかし、から煙を断つように付けたヘルメットにバックパックから酸素が行き届いているので外からの呼吸はせずに済んでいる。
まずはエナジーフィールドを放ち見えるところから順に火の元を断つ。火は潰せば消える。
エントランスが済み次は階段、通路。徐々にエナジーフィールドによって消火活動を行っている。
「なんだあんた!?」
「向こうから逃げるんだ!」
「あっ……はい!」
理解を表面でした住民はすぐさまエントランスへ駆け下りた。
「次だ!全員救うんだろ!」
外へ飛び出しエナジーショットの照射の反動でテラスへ向かったリヒトワンド。テラスから外に飛んで窓を突き破った
子供にはやや刺激的音が響いただけに火事のパニックがさらに悪化した子供が居た。
「大丈夫!落ち着いて!僕はブリッツマンの仲間だ!君を助けに来たんだよ」
「ほんとうに?」
「あぁ、本当さ。ママとパパは?兄弟とかは?」
子供をあやすように灯夜なりになるべく優しいトーンで言葉をかけた。
「ぼくはるすばんをしてて……それでえっと」
「オーケー、じゃあ僕に抱っこしてね。ここから飛ぶよ」
子供を自らしがみつかせたのを確認したリヒトワンド。窓から落下。
「うわーーーーーーーーーーー!!!!!!……うわぁ!空を飛んでる!?」
「捕まってね!」
マンションの周辺に集まっている野次馬や脱出した者たちの元へ着地したリヒトワンドと子供。
「あぁ、ありがとうございます……!あの……名前を伺っても……?」
子供の保護者が迎えにきた。
「俺は……」
忙しいしそんな暇はないという形で名乗らないでいた。実際、どう名乗るべきか考えてすらいなかったから。再度マンションへ突入した灯夜。助けた人と良い雰囲気になろうと仕事はまだ終わらない。
―8―
「急いで!ここから逃げて!」
輝馬は自分の声を撒くかのような勢いで声を怒鳴り散らしていた。とはいっても主に避難誘導と野次馬の仕切りだ。
「頼むぞ、井崎灯夜!」
そう願をかけ、自分の出来る最善を尽くそうとした輝馬。最善を尽くすのは確実に灯夜も同じだとも理解はしていた。
「なぁ、あんた!手伝うぞ!」
「……わかった。じゃあまず、二人は俺と一緒に消化ホースを。そこの二人は野次馬をなんとかしてくれ!」
何かが導いてくれいたようだ。なにか、善意とはまた違う。というより善意のそのまた根っこの部分に何かを突き動かされている。周りと共に消火活動を行っている中で気づきができた。
―9―
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
自分が奪ったものを、奪われたものを戻すことは出来ないし正当化なんて以ての外さ。でも、同じ目に逢う目の前の人を助けることは出来るはずだ。その為に、俺は自分を鍛えていき、戦っていく。
未来や希望の為にとか大義名分での理由はまだ付いていない。でも、自分の手に届くものの為に戦い守ることは出来るはず。いつかは導けるはず。選択したんだ。俺にできることを。
もう迷いはしない。後悔はこれからも繰り返すかもしれない。でも、そこから逃げたりはもう絶対にしない。目の前の敵からも困難からも。
さぁ、頭にある錘は振り払おう。戦いには邪魔だから。今しているこのヘルメットも息苦しいけど、いつかは受け入れられるはず。
「目の前をことやれずに何が悔いだ」
俺は井崎灯夜だ。埋め込まれた記憶だろうと父親のエゴのために人工的に作られていようと俺は俺だ。だからこれは俺の戦いだ。
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