最終話 そして今日も彼女は――――

 レディース仮面が三原中川から消えて三か月ほどが経った。

 有吉もレディースクイーンとして活動することがほとんどなくなり、学院は以前のような穏やかさを取り戻したが、美幸などはかえって退屈さを感じるほどだった。

 あの危険な日々は多分もう戻ってこない。

 けれど、とても勢いが良くて、刺激的で、貴重な日々だった。

 めぐみからもとりたてて連絡がないまま――特段、連絡先を交換していたわけでもなかったのだった、そういえば――美幸は普通の学院生活を送っていた。

 だがある日のこと。

 スクープのチャンスを失い、すっかり存在が薄くなっていた賢が、大騒ぎで美幸の教室に駆け込んできた。


「岡部さん岡部さんっ、聞きましたかっ」

「なーによ、新聞部」

「隣町の学校にレディース仮面が出たらしいですっ! 僕のイトコが見たって!」

「あんたイトコ何人いるのよ……」


 美幸は呆れて賢に言いながらも、めぐみが元気にしていることを知り、嬉しくなった。

 なんならわたしもそっちの学校へ転校しちゃおうかしら、などと思ったりもしたが、隣町なら意外に近い。

 今度、手土産でも持って家に遊びに行ってみよう、先生も誘って――美幸はそう思うのだった。



「うわああああっ」


 壁際に追いつめられる一般生徒に、絵に描いたようなガラの悪いヤンキーどもが迫る。


「ちょーっとおつきあい願えればいいんだよぉ?」

「あとカンパ金もよこしな!」

「いっ、嫌ですよ……」


 カバンを抱えてぶるぶる震える生徒。

 そのとき――逆光に照らされて、ミニスカートのシルエットが見えた。


「ずいぶんとテンプレートな脅し文句ねぇ、古臭い」

「誰だっ」

「この前のほうがもうちょっと工夫があったわよ。こりゃここの学校は楽勝だわね!」

「だから誰だっ、貴様っ」


 ひとりがシルエットに飛びかかる。

 だがシルエットからすらっと引き抜かれた木刀の攻撃に、一撃で崩れた。


「光あるところに影あり――悪あるところに正義あり」

「何を言ってる!」


 もうひとりが真横から手を伸ばす。

 横に勢いよく払った木刀が、ヤンキーの胴体に見事ヒットして――


「ぐああっ」

「山あるところに谷があり、川の先には海がある! そしてッッ!!」


 正面から殴りかかるヤンキーのみぞおちに、木刀が突き刺さる。


「全ての道はローマに通ず!!」


 そこにいたすべてのヤンキーどもが、バタバタとあたりに転がった。

 逆光に、ワインレッドのハチマキが美しくひるがえる。


「あっ、あなたは…………」

「世紀末の覇者、レディース仮面!! 只今参上ッ!!」




 ――完――

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彼女の名はL 担倉 刻 @Toki_Ninakura

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