第42話 戦いはひとまずの終わりをみる
めぐみは保健室のベッドで目を覚ました。
「!」
一瞬、自分がどこにいるのかわからなかったが、隣のベッドで有吉が横になっているのを見て、状況を察した。
美幸と順、それに紗姫が顔をのぞきこんでいる。
「めぐみちゃん……めぐみちゃんっ、大丈夫……っ!?」
「岡部さん……大丈夫ですよ、大丈夫です。母さん、……【城】はどうなった……!?」
よろよろと起き上がりながらそう聞くめぐみ。
順はひとつため息をつき、めぐみを再度寝かせながら、言った。
「やっぱりそれを聞くのね。――【城】は、機能を失ったわ」
里佳も島田も、そして藤山も倒れ、ヤンキーどもも累々と転がっていた――順はめぐみが倒れた直後に侵入した【城】の様子について、そう語った。
「あんたまで倒れているとは思わなかったけどね。よく頑張ったね、めぐみ」
めぐみの頭を撫でる順。
「めぐみちゃん……ごめんなさい、ごめんなさい、わたしのために……」
美幸がほろほろと涙をこぼしながら、めぐみの手を包む。
「気にしないでください、岡部さん。岡部さんに怪我がなくて、本当に良かった……」
そこでめぐみはハッとした。
「母さん! 【あのお方】は……!」
順は静かに首を振った。
「多分、藤山が敗北したあたりで、うまく逃げだしたとしか思えない。【城】にはもういなかったわ」
「そう……」
めぐみは布団にくるまれたまま、親指の爪を噛む。
潰しきれなかった――そんなつぶやきが聞こえるようで、美幸は胸がきゅっと痛んだ。
だが、彼女の背中から、声がした。
「ありがとう、めぐみちゃん」
紗姫だった。
ただただ涙を流しながら、彼女は立ち尽くしていた。
「あの子を止めてくれて――ありがとう。きっとこれで、【花嫁制度】はなくなる。学院も、平和になるわ……」
「紗姫さん…………」
めぐみは天井を見つめた。
すべて終わったわけではないが、ひとまずのおさまりはみたのかもしれない。
やがて有吉も目覚めた。
お互い、傷は深かったが、病院の厄介にはならなくてすみそうだった。
「めぐみちゃん、本当に行っちゃうの」
朝のホームルームで、有吉が「めぐみが転校する」旨を言ってから、美幸はどうにも落ち着かなかった。
放課後、理事長室へ行くこともなくなっためぐみを引き留めて、美幸は話しかける。
「――できれば、三原中川にいたかったですけど。ここが最後の学校にはなりませんでしたから」
「……【あのお方】を、逃がしたから……?」
「傷つく言い方をされますね」
「あっ……そんなつもりじゃなかったんだけど」
めぐみは苦笑する。
【あのお方】を潰せなかったことで、まだ力の及んでいる学校がある、という話を理事長から聞き、めぐみは転校を決めた。
「潰しきれなかったのは自分の落ち度です。大丈夫、この学校には先生がいますし、もう安心ですよ」
結局のところ目覚めて回復したヤンキーどもは洗脳が解けた。
里佳は逃げるように三原中川を出てゆき、島田は有吉がつぶやいた通り補習授業と追試に明け暮れる日々を送っているという。
島田の父親である校長も力を急激になくし、近いうちにも失職するであろうと理事長が言っていた。
「でも、藤山は……」
「それは……気になっては、いますけど」
藤山はあの一件以来、まだ目覚めず眠ったままだという。
紗姫が引き取り、様子を見ているということだった。
「でも……ようやく、紗姫さんと藤山が本当の親子になれるんです。きっと心配はいりません」
穏やかな表情のめぐみに、美幸もふわっと笑う。
「また……三原中川に、戻ってくる?」
「さあ、わかりません。……でも……」
「でも?」
「留年なしで卒業が決まれば、もう一度――とは、思っていますよ。だってここには、友達がいますからね」
「それってわたしのこと!?」
めぐみは明確に答えず、ただ柔らかな微笑みを返した。
「そういえば、めぐみちゃん、一度だけわたしのこと、名前で呼んだよね!?」
「えっ……」
「ね、うっすら記憶にあるんだ、美幸ちゃんって呼んでくれたの!」
洗脳中のことだったはずだがまさか覚えているなんて――めぐみは恥ずかしさで顔を真っ赤にしながら、教室を飛び出した。
美幸がその後を追う。
「気のせいでしょうっ……」
「えー? そうかな? すごく嬉しかった覚えがあるんだけどなぁ」
「気のせいですってばっ」
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